『Mirror Mirror』を通したコミュニケーションの先に広がった光景とは--。
BBHF | 2019.11.28
「2枚でひとつの作品」というコンセプトを掲げて、BBHF(ex. Bird Bear Hare and Fish)が7月にリリースした6曲入りEP『Mirror Mirror』を携えたツアー「ONE MAN TOUR “Mirror Mirror”」のファイナル公演をマイナビBLITZ赤坂で開催した。北海道、大阪公演を経て開催された東京公演のチケットは早々にソールドアウト。満員の会場でBBHFが見せたものは、ロックバンドという枠を超え、新しい音楽を探究してゆくBBHFのあくなき進化、そして、1曲5分にも満たないポップミュージックというフォーマットの中で、どれだけリスナーの想像力を掻き立て、その世界観を共有できるかという実験的な試みだった。
『Mirror Mirror』のジャケット写真をモチーフにしたバックスクリーンがうっすらとステージをピンク色に染める。そこに、尾崎雄貴(Vo/Gt)、DAIKI(Gt)、佐孝仁司(Ba)、尾崎和樹(Dr)に加えて、サポートキーボードの岩ヰフミト(前身バンド・Galileo Galilei活動時のメンバー)の5人が登場すると、ミニマムなポップナンバー「夏の光」と「友達へ」からライブがスタートした。シンセサイザーやサンプリングパッドを駆使した時代感のある音色をふんだんに取り入れたBBHFのロックサウンドが、ブリッツいっぱいに心地よく響き渡った。空間系のエフェクトを利かせたギターロック「レプリカント」、繊細な歌い出しからサビに向けて徐々にビート感が高まってゆく「リビドー」へ。ライブの前半に披露されたのは、スマホによるデジタル・コミュニケーションをテーマに描いた『Mirror Mirror』のコンセプトに寄り添うように、電子的なサウンドを大胆に取り入れた楽曲たちだ。
そんな空気が少し変わったのが、『Mirror Mirror』の対となる作品『Family』の収録曲「シンプル」だった。和樹が打ち鳴らすドラムスティックのカウントを合図に3本のギターが重なり合うと、どこかティーンネイジャーっぽい空気感をまとった瑞々しいサウンドが躍動した。それは一見、『Mirror Mirror』のコンセプトとズレる楽曲にも感じたが、《ほらネットの海に 垂れ流せば? 泣きながら笑うクソムカつくあの絵文字付きで》と、挑発するように綴る歌詞が聞こえてくると、「あ、なるほど」と納得する。BBHFというバンドのタフさを感じさせる長めのセッション。そこから繋いだ「Mirror Mirror」で、SNSで巻き起こる炎上と「いいね」の連鎖をかぞえ唄のように歌うと、現行のポップシーンのトレンドをロックバンドらしく解釈した「Torch」では、ふと人肌の温もりを思い出させてくれる。まだライブは中盤だったが、このあたりから、この日BBHFがステージで描こうとしたものが何なのか、おぼろげに見えてきた気がした。それは、空虚で無機質なデジタル・コミュニケーションの奥にある人間ではないか、と。
徹底して『Mirror Mirror』の世界観を表現する。と言っても、それを豊かなアプローチで表現できるのが、どんなときも貪欲な探求心で新しい音楽を開拓し続けるBBHFの引き出しの多さだ。アイリッシュな気配を重層的なコーラスワークが彩る「Work」から、アーバンなスローテンポ「だいすき」、陽だまりのようなポップソング「バック」へと、曲ごとにまったく違う景色を描いてゆく。終盤、カバー曲としてディズニーのアニメーション映画『ライオンキング』の主題歌「Can You Feel the Love Tonight」が披露された。子どもの頃から一緒に育った雄貴と和樹の兄弟が、ビデオテープが擦り切れるほど繰り返して見た思い出の曲だという。ピアノのみの伴奏のなかで、雄貴が紡いだオリジナルの日本語詞には、捉えどころのない愛のかたちが飾らない言葉で歌われていた。
ステージが赤い光に包まれ、野性的なリズムにのせて、強い意志を孕んだ雄貴のボーカルに、DAIKIのギターが力強く寄り添った「次の火」。そして、本編のラストを飾ったのは、佐孝が弾くゴリゴリのベースラインが口火を切り、明滅する光の中で、和樹が激しく打ち鳴らすシンバルが、言いようのないカタルシスを生み出した「ウクライナ」だった。胸の中の熱い闘争心を掻き立てられるクライマックス。そこには、ライブがはじまったときの静謐なムードからは一転、剥き出しの感情をぶつける熱い人間の姿が浮き彫りになっていた。
本編で完結するライブだったからこそ、アンコールは、むしろ次作『Family』の布石となる内容だった。すでに先行配信されている『Family』の収録曲「涙の階段」について、雄貴が「細かいことを考えずに、すべてを感じて行動を起こそう」というメッセージだと説明。『Family』というEPは、「僕らを取り巻く世間、周りにあるものすべてを“家族”と呼んでみようという、今までの僕らにはないスタンスの作品」だと重ねた。そして最後に、今年、レーベル・事務所を移籍して、新たなスタートを切ったBBHFだからこそ、「僕たちが変わろうとする何かを感じてほしい」と言葉を添えて、「涙の階段」を届けた。
メンバーがステージを去ったあと、さらにもう1曲、『Family』からの新曲「なにもしらない」のミュージックビデオがスクリーンに流れた。解放的なバンドサウンドとシンクロするように、鬱屈した想いを抱えたサラリーマンの心が次第に解き放たれていく映像は、その楽曲に込めた前向きなメッセージを鮮烈に伝えるものだった。
11月に『Mirror Mirror』と対になる2nd EP『Family』をリリースし、ただいま全国10ヵ所をまわるツアー「BBHF ONE MAN TOUR “FAM! FAM! FAM!”」を開催中。そのツアーについて、雄貴は「『Family』のツアーと言いつつ、『Mirror Mirror』と『Family』の完成形になる。今回のツアーといろいろリンクして面白いものになると思う」と言っていた。デジタル・コミュニケーションの対になるならば、『Family』のほうは、よりフィジカルなコミュニケーションを表現した作品、あるいはツアーになるのだろうか。12月16日に恵比寿LIQUIDROOMにて行われるファイナルもレポート予定だが、こんなふうに、いろいろな想像をして、バンドの次のアクションをワクワクしながら待つ時間も音楽の楽しみの一部だとしたら、BBHFが与えてくれたこの時間を噛み締めて待ちたいと思う。
【取材・文:秦理絵】
【撮影:松木宏祐】
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小説をイメージした2枚組全17曲の2nd Full Album“BBHF1 -南下する青年-”5月27日リリース決定!!
リリース情報
リリース情報
Family
2019年11月13日
Beacon LABEL
02.なにもしらない
03.真夜中のダンス
04.シンプル
05.水面を叩け
06.あこがれ
07.涙の階段
セットリスト
ONE MAN TOUR “Mirror Mirror”
2019.9.27@マイナビBLITZ赤坂
- 1.夏の光
- 2.友達へ
- 3.レプリカント
- 4.リビドー
- 5.シンプル
- 6.Mirror Mirror
- 7.Torch
- 8.Work
- 9.だいすき
- 10.バック
- 11.Can You Feel The Love Tonight [Elton John]
- 12.次の火
- 13.ウクライナ 【ENCORE】
- 1.涙の階段
お知らせ
BBHF ONE MAN TOUR "FAM! FAM! FAM!"
2019/11/21(木)広島 セカンド・クラッチ
2019/11/23(土・祝)岡山 IMAGE
2019/11/25(月)京都 磔磔
2019/12/01(日)福岡 DRUM Be-1
2019/12/03(火)大阪 Shangri-La
2019/12/05(木)宮城 仙台MACANA
2019/12/09(月)神奈川 F.A.D YOKOHAMA
2019/12/14(土)愛知 APOLLO BASE
2019/12/16(月)東京 LIQUIDROOM
2019/12/20(金)北海道 札幌PENNY LANE24
METROCK ZERO 2019
2019/12/08(日)東京 EX THEATER ROPPONGI
w/ 雨のパレード / SHE’S / tricot
Newspeak「No Man’s Empire Tour」
2020/01/25(土)北海道 札幌BESSIE HALL
w/ Newspeak / CVLTE
※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。