KREVAの音楽劇「最高はひとつじゃない 2016 SAKURA」開幕!
KREVA | 2016.03.30
3月25日、金曜日、昼。KREVAの音楽劇「最高はひとつじゃない 2016 SAKURA」の公開舞台稽古が、池袋にある東京芸術劇場プレイハウスで行われた。
同日の夜に初演を控えていることもあり、ロビーには続々とお祝いの花が届く。会場の目の前にあるバスのロータリーから見える桜も、9分咲き。初日を祝うかのようだ。そんな中、公開舞台稽古は幕を上げた。ステージからは、ロビーや桜とは対象的に、初演直前ならではの演者のテンションの高さと緊張感が伝わってきた。
2011年に初演、2014年に再演された「最高はひとつじゃない」という音楽劇。その新作が「最高はひとつじゃない 2016 SAKURA」だ。メインキャストは8人。その中でも、重要な役どころを演じるKREVAと内博貴は、本作のために“ウチクレバ“というユニットを結成。ラップ初挑戦となった内は、KREVAの元、ラップを猛特訓。冒頭から、KREVAと見事なコラボレーションを繰り広げた。
他の出演者に「自由すぎる」と言われたブラザートムは、そのフリーダム加減をいかんなく発揮。台詞かアドリブか区別のつかない彼のパフォーマンスを、他の出演者たちが見事に受けて作品の流れにつないだ瞬間も何度もあり、演者同士のコミュニケーションも上々、いいムードで、重ねるにつれ、パフォーマンスもどんどん良くなっていく予感がびしびし感じられた。
劇の途中で何度か出てくる演者たちの群舞もみどころ。KREVAの曲に合わせて、ヒップホップのステップを踏んだ直後に、歌詞に合わせたように、瞬時にコリオグラフィーのような滑らかな動きに変わる。殺陣のシーンも含み、演者が入れ替わり立ち代わりステージを行ったり来たりしても、どたばたしているように感じないのは、普通の舞台との大きな違いだと思う。すなわち“音楽劇”らしさのひとつだろう。この劇では、キャストに加え、音楽も主役=演者なのだ。
KREVAは「ラップはミュージックと台詞の中間、つなぐもの」と言っていたが、この手法は、台詞から曲、曲から台詞という想像の範疇を超え、約3時間弱のステージ全体にエネルギッシュに溢れていた。
出演者も個性を生かした魅力を発揮。間合いや激変する表情などで存在感を見せたブラザートム。KREVA、AKLO、Mummy-D(ライムスター)と、ラッパー3人が、きれのいいラップを披露する場面も多々あった。増田有華や綿引さやかも、それぞれ表現力豊かな歌を聴かせた。前作に比べて音楽の比重が多くなった感があったが、ミュージカルではなく、見事に“舞台”として成立していたのはお見事。クールで秘めた情熱を優しく演じたAKLOと、大胆&コミカルな演技で観客を笑わせたMummy-D(ライムスター)の新境地、不思議な存在を演じたKREVAと、三人三様の存在感を見せつけた。
また、シンボルとなる“桜”を独特の雰囲気で演じた小西真奈美の聡明感は、散りゆく桜の儚さに通ずるものがあったように思う。
KREVAの新たな音楽劇「最高はひとつじゃない 2016 SAKURA」は “桜”を軸に、現代や過去を行き来するオムニバス・ストーリーだ。見ていく中で、多くの人間の感情が浮き上がり、ストーリーの中で変化していく。個々の感情はとてもシンプルなものだが、たくさんの感情が集まり、重なっていく。まるで、散った桜の花びらが、降り積もるように。そんな“様々な感情”に、観ている者の心に、どんピシャでミートしてくるKREVAの楽曲群。KREVAという表現者の作る楽曲のバリエーションと、懐の深さも改めて痛感した。
舞台稽古後の囲み取材で、KREVAはこんなことを言っていた。
「誰も観たことのないものだから、楽しみ方もまだ決まっていないんです。皆さんが来て、楽しんでくれて完成されるものだと思います」
3回目にして、エンターティンメントとしての熟成を感じる今回の音楽劇。楽しみ方は観客が決めるとKREVAは言ったが、誰もが楽しめるエンターテインメントになっていることは、間違いない。
観たことのない新しい刺激は、きっと、あなたの心を激しく揺さぶり、観劇後は、明日が楽しみになる。
そんなステージが、あなたを待っている。
【取材・文:伊藤亜希】