レビュー
安藤裕子 | 2011.03.02
リリースに先駆けて発表され、話題になった「林檎殺人事件」(原曲:郷ひろみ、樹木希林)のMUSIC VIDEOで樹木希林、池田貴史(100s、レキシ)との共演が、安藤裕子『大人のまじめなカバーシリーズ』の1番の売りではないことを、はじめに言っておきたい。
彼女のオリジナル楽曲を聴いたことのある人ならわかると思うけれど、安藤裕子の特筆すべき魅力をあげるなら、“多彩な声色”と“幅広い音域”だ。オリジナル曲「さびしがり屋の言葉たち」では、歌謡曲テイストに艶やかな赤紫色の芯のある太い歌声をのせているし、「海原の月」などのスタンダードナンバーでは、柔らかみのある朱色の声を魅せている。それに、「TEXAS」では、繊細で透き通ったファルセットを駆使しているし、「あなたと私にできる事」では、その手前の甘くキュートなパステルピンクの高音を響かせているのが印象的だ。1曲ごとにがらりと表情を変化させる色彩豊かな楽曲が、彼女の魅力である。これは、『大人のまじめなカバーシリーズ』の収録曲にも言えることだ。
2004年から不定期に発表された安藤裕子のカバーシリーズたちを聴き続けてきて、M-3「セシルはセシル」(原曲:早瀬優香子)、M-6「ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ」(原曲:鹿取洋子)、M-8「WOMAN ~Wの悲劇より~」(原曲:薬師丸ひろ子)など、マニアックな選曲に驚かされたものの、個人的に衝撃的だったのは、「ぼくらが旅に出る理由」(原曲:小沢健二)だ。まだリスナーの耳に真新しく残る近年の楽曲は、カバーとして歌いあげるのが難しいのだと思っていた。原曲のイメージの色濃い楽曲を、自分色に染めるのは至難の業なのでは、と。しかし、彼女は、彼女の音域で、彼女の声色で、東京スカパラダイスオーケストラのドラマー茂木欣一をヴォーカルに迎えるという予想しなかった編成も加えて、彼女ならではのポップソングに仕上げたのだ。
これは、本作に収録されているくるりの名曲、M-10「ワールズエンド・スーパーノヴァ」でも顕著に表れている。実際に、この曲を昨年行なわれた『安藤裕子LIVE 2010"JAPANEASE POP"』の会場で聴いて、“あれ?この曲って安藤裕子のオリジナル曲だっけ?”と勘違いしそうになったほど。ちなみに、「ワールズエンド・スーパーノヴァ live ver.」は、ボーナストラックとして収録されているので、ぜひ聴いていただきたい。
『大人のまじめなカバーシリーズ』は、7年という年月を経て、彼女が自分と“まじめ”に向き合って、1曲1曲、1音1音、1語1句をつくりあげてきた作品である。カバーと言えど、安藤裕子の魅力がぎゅっと凝縮された作品なのだ。安藤裕子初心者にもオススメしたい1枚である。
【 文:橋本恵理子(EMTG MUSIC) 】
リリース情報
大人のまじめなカバーシリーズ
発売日: 2011年03月02日
価格: ¥ 2,667(本体)+税
レーベル: cutting edge
収録曲
1. ジ・アザー・サイド・オブ・ライフ(原曲:樋口康雄 1979年)
2. 林檎殺人事件 (feat.池田貴史)(原曲:郷ひろみ 樹木希林 1978年)
3. セシルはセシル(原曲:早瀬優香子 1986年)
4. 君は1000%(原曲:1986オメガトライブ 1986年)
5. 君に、胸キュン。-浮気なヴァカンス-(原曲:Yellow Magic Orchestra 1983年)
6. ゴーイン・バック・トゥ・チャイナ(原曲:鹿取洋子 1980年)
7. 春咲小紅(原曲:矢野顕子 1981年)
8. Woman ~Wの悲劇より~(原曲:薬師丸ひろ子 1984年)
9. 松田の子守唄(原曲:サザンオールスターズ 1980年)
10. ワールズエンド・スーパーノヴァ(原曲:くるり 2002年)
11. ぼくらが旅に出る理由(原曲:小沢健二 1994年)
12. ワールズエンド・スーパーノヴァ live ver. (BONUS TRACK)