レビュー
RADWIMPS | 2011.03.11
今年に入り立て続けに発表された「DADA」「狭心症」の2枚の先行シングルを聴いて、今作はてっきり今までの<君と僕>に代表される、愛しい人との一対一の絶対値から、一対世界、一対命的なものに移るのだろうと勝手に予測していた。しかし、実際に届けられたラッドウィンプスのニューアルバム『絶体絶命』は、一対全世界、一対命的なものを配置しつつも、やはり根本は一対一。いわゆる、<君と僕><あなたとわたし>の間で成り立っている作品であった。そして、それは逆にどんなスケールが大きかろうが、結局世界は一対一から成り立っている。そんなことを改めて教えてくれている作品となった。
確かにそうだ。全世界だって所詮は1対1の膨大値。ひとりを愛せないのに、全世界なんて愛せません。そんな【世界<あなた=わたし】を、実にどの曲もひとりぼっち感たっぷりに歌っている今作。
人が生きていく上で、問い、探り、最終的には見出し、辿りつこうとしている、その真理や摂理が詰め込まれた「DADA」。青い空を感じられる解放感と、軽い4つ打ちのビートが適度な上昇感を与えてくれる「透明人間18号」。軽快なビートがどことなくブレイブ感を生み、自分を突き動かしたり、後押ししたり、引っ張ってくれるものについて歌われた「君と羊と青」。ギターの爪弾きを中心にあえてウォームな伝達方法で歌う「だいだらぼっち」。うって変わり、ドラマティックなギターロックサウンドの上、”自分の中では、我こそが主人公だ!!”とのアイデンティティの明示も感じる「学芸会」。理不尽で、いびつで、不条理で、矛盾だらけで、だけど、時々見せるふっとした美しさに、心がホロっとなり、聴く者に”だけど、生きていかなくちゃ!!”と思わせる「狭心症」。前にしか進めないし、時間は進むしかないことを改めて考えさせられる「グラウンドゼロ」。ポップで軽快な弾んだサウンドの上、韻の踏み方も面白い「π」。リリックのひねりと並べ方、流転していくさまも興味深い「G行為」。劇的なドライヴ感溢れるロックサウンドと、大きな世界の中にポツンといる自分を見つめているような「DUGOUT」。いつもあってしかるべきと思っていたものが、実は当たり前ではないと、優しく諭す「ものもらい」。牧歌的なサウンドの上、携帯電話の中に自身のアイデンティティがあるようだと自嘲する「携帯電話」。ダイナミックなロックサウンドもライヴで映えそうな「億万笑者」。そして、”君こそが僕の宇宙であり世界なんだ”と、改めて気づいたと歌う「救世主」の14曲を収録。
結局、僕にとっての救世主や創世主は、あなたであり、君である、に帰着した今作。自分の想像を軽く飛び越えた作品内容を突きつけられながらも、まるでそれがあたかも望んでいたもののように受け取っている自分に驚かされている。
この作品を手に取るみなさんも、きっとその想像を越えた作品内容ながら、どこかこの作品の内容を望んでいたと、きっと聴き終えた後に思うことだろう。この作品こそが、もしかしたら、今までの、そして、これからのあなたのデジャヴをなのかもしれない。
【 文:池田スカオ和宏 】