レビュー
栗山千明 | 2011.03.17
不思議だ。同じ演じるでも、役者と歌い手では、観ている/聴いている側の観点が全く違う。
ドキュメントの場合は除き、役者の場合、観る者にとってのエッセンスとして、その役者の持っている資質や素材やファクターも重要だが、そこに役以上のものを求めてはいない。その証拠に、ドラマに魅入るにつれ、観ている側の意識は、最初の役者の個からいつの間にか役として役者にすり替わっていることに気づく。いわば、役者で重要なのは、どうその役に自分を溶け込ますか?成り切るかであり、あくまでも中心は、役者でなく役だったりする。
それに対し歌い手の場合は逆だ。モノマネを求められていれば別だが、オリジナルはもちろん、カバーや提供曲を歌う場合には、そこに原曲以上のその人なりのアイデンティティやオリジナリティが求められる。その曲をそのアーティストがどう表現し、どう料理するか?が重要であり、あくまでも中心は曲ではなく、アーティストにある。
栗山千明は、本業は女優だ。しかし、歌も歌う。そして、今回のアルバム『CIRCUS』は、全11曲に渡り、10アーティストから楽曲を提供。しかも、そのアーティストたちがいわゆるロック界のプレイング・マネージャーたち。他者への楽曲提供やプロデュースも行うが、各人プレイヤーやシンガーやソングライターとしてかなりのオリジナリティを確立している人たちばかりだ。
そして、栗山はそれらの歌を歌い、その提供元っぽさをキチンと残しつつ、栗山千明らしさを、そこに現すことに成功している。それはもしかしたら、彼女が女優だからこそ成しえたものかもしれない。
9mm Parabellum Bulletがバックを務め、ボーカルの菅原が作詞、ギターの滝が作曲した、2ビートの上、ザックザックでハードエッジなサウンドと、スリリングで歌謡的ドラマティック性を有した「ルーレットでくちづけを」。作詞・作曲を浅井健一が務め、バックをPONTIACSが担当した、クールで緊迫感漂う「コールドフィンガーガール」。椎名林檎が作詞・作曲した、艶めかしさと可愛らしさを漂わせた「おいしい季節」と、ノイジ―で怪しい雰囲気漂う「決定的三分間」。BUCK-TICKのボーカル櫻井が作詞、ギターの星野が作曲を担った、美しさと淫靡さ、どこか背徳感漂う「深海」。布袋寅泰が作曲、いしわたり淳治が歌詞を提供、ベースとギターを布袋本人が担当した、疾走感と上昇感、サビの解放感がたまらない「可能性ガール」。佐藤タイジが作詞・作曲。Theatre Brookをバックに歌った、ファンキーながらクールビューティ然とした姿が伺える「五穀豊穣ROCK」。元ビークル、現在はソロやMONOBRIGHTにて鋭意活動中のヒダカトオルが作詞作曲、コーラスにて参加した、シンガロング性に満ち、どこか光や明るさを感じる「New Moon Day」等を収録している。
繰り返しになるが、役者は役を演じ切ることが、歌手はオリジナリティを表わすことが、最大の自己アピールとなる。そんな中、今作はそれぞれの主人公が演じられながらも、キチンとそこにオリジナリティが確立されている。各曲を歌う時、役者として、歌手として、果たして栗山はどちらの意識を持って歌ったのだろう?きっと「無意識のうちに滲み出た結果」と答えてくれそうだ。だとすると、それを体現出来ている栗山千明は凄い役者であり、シンガーだ。
【 文:池田スカオ和宏 】