レビュー
VERBAL | 2011.03.18
これはm-floに於いても言えることなのだが、VERBALの魅力は、そのラップのフロウのスキルの高さや、楽曲によるキャラの使い分けももちろんだが、僕は彼のバランスの良さとジョークのセンスだと思っている。
しゃがれ気味で低い、一聴するとハーコースタイルに捕らえられがちなそのラップに、程よい軽さと聴きやすさを与えているのは、そういったバランスやジョークのセンスを時折りエッセンス的に差し込んでいるところ。とは言え、おちゃらけたリリックをポンと織り込もうが、不思議とそこに、おもろラップ的なものを感じない。いや、感じさせないところも凄い。
VERBALは賢く聡明なラッパーだ。リリック構築の緻密さや、韻の踏み方、それのフローでの流し方や、そこにおいての効力やバランス、何よりも聴き手の耳に入りやすさや、そのあとのフレーズの心の残り度までも考え、計算しつつものごとを進めているイメージがある。
そんな彼の面目躍如と言わんばかりに、この初のソロアルバム『VISIONAIR』には、上記のバランスやジョークセンスがところどころに散りばめられている。もちろん主軸にあるのは、彼のラップ。そこに、ジャーメイン・デュプリ、スウィズ・ビ―ツ、大沢伸一、がプロデュース&トラックを手掛けたさまざまなタイプのトラック類が、ヒップホップやエレクトロといったさまざまなブラック/クラブミュージックを始め、フォーキ―さやサーフミュージックといった下敷きを敷き、彼チョイスの、安室奈美恵、リル・ウェイン、ニッキ―・ミナ―ジュ等のフィーチャリングが、彼の持つ各曲のイメージの上、独特の色を放っている。
夢は見るもの、叶えるものと、ハードで緊迫感のあるトラックの上、力強くラップされるプロローグ的な「VISION IN THE AIR」。安室奈美恵をフィーチャリングし、スリリングなトラックの上、”ブラックアウトせよ!!”とアジる「BLACKOUT」。8ビットなウワモノとドラムンベースなビートにバーバルのノイジーにエフェクトされた歌声がベストマッチを見せる「I CAN’T HELP MYSELF」。ノイジーなシンセのループと力強いキックのトラックに、ハーコーとジョークの同居がいかにもVERBALらしい「BALL N BOUNCE」。LMFAOやFar East Movementを彷彿させる、追い立てるようなトラックがクラウドを驚喜させそうな「DOPE BOY FRESH」。シンガーSHUNYAをフィーチャーした切ないバラードの「FALL OUT」、ティンバランドサウンドに、チープな電子音のウワモノも特徴的なゲームオーバー感や到達感漂う「YOU ARE...」。フォーキーなアコギのカッティングとチープなTR-808のドラムマシーンが牧歌性とのどかさ、大空感を味合わせてくれる歌ものチューンの「NOTHING」。他、全14種のバラエティさを味あわせてくれる今作。
正直もっと攻め攻めでガシガシ、アンダーグラウンドでブラッキーなハーコースタイルでくるか?、ディスコやハウス等も取り入れた、もっときらびやかで華やかな作風でくるか?のどちらかを想像していたのだが、今作はどちらでもなかった。いや、どちらでもあったのかな。煌びやかなんだけど、どこかトーンはグレイ。ガシガシしているけど、聴きやすく、親しみやすい。重いいんだけど、軽やかでポップに響く。”まさしく、それがVERBALのバランスなんだろうな...”と聴きながら何度も思った。
【 文:池田スカオ和宏 】