レビュー
奥田民生 | 2011.04.12
2年8ヵ月ぶりとなる去年の奥田民生のソロツアーの焦点はふたつあった。まずはソロでの対面が久しぶりとなる観客とのコミュニケーションを楽しむことと、もうひとつはなんといっても昨年に行なった“ひとりカンタビレ”の曲のバンドでの演奏だ。OTの全楽器演奏も味わい深かったが、このDVDはドラムス湊雅史、ベース小原礼、キーボード斎藤有太という最強メンバーによるOTライブ・サウンドの最高峰での“新曲”が心底堪能できる内容になっている。
このツアーの直前、OTは“Verbs”で日本ツアーを行い、凄腕外人ミュージシャンと“ひとりカンタビレ”から「わかります」と「たびゆけばあたる」を演奏し、OTの音楽の核心にある“グルーブ”のひとつの到達点を見せ付けた。その時点で彼のバンド“MTR&Y”への期待は当然高まり、結果、このDVDに収められているパフォーマンスに行き着くのである。
ご存知のように昨春に音楽シーンの話題を独占した“ひとりカンタビレ”は、OTが新曲を公開ひとりレコーディングするという世界初の内容を持つツアーだった。その成果は最新アルバム『OTRL』として発表された。この世界初の快作を冷静に聴くと、ドラムは湊を、ベースは小原を模した箇所がいくつもあることに気付く。キーボードに関しては真似するどころか、かなり苦労していたが(笑)。それを本家本元が演奏するのだから、もうたまらない。そしてこのDVDは、そんな大きな期待に見事に応えている。 C.C.Lemonはファイナルとはいえ、ほとんどリハーサルなしの11本という短いツアーの最終日。が、その完成度は非常に高かった。というより、バンドが感覚を取り戻して駆け上がっていく瞬間が収められていて、その意味では歴代のOTのライブDVDの中でも指折りのクオリティだと言える。
観客との久々の再会を1、2、3の3曲でアッという間にピークに持っていくあたりは、さすが。と思っていると、ここで4、5と続く『OTRL』からの曲がズシンと響く。せっかくのDVDレビューなのに音の話ばかりで申し訳ないが、OTの場合はそうした素晴らしい音を出したときのOTを含むメンバーたちの表情が楽しいのだ。
特に中盤の12は最高。その後の小原の表情は、ベースを弾く指先と、バンド全体の音を聴く“耳の表情”がいい。名人がどっぷり音楽に入り込んだ入神の顔を見れるDVDなど、そうそうはない。
ステージセットはいたってシンプル。ライティングも演奏するメンバーをどう見せるかに焦点を絞っていて、演出は音楽そのものに集中している。とにかくバンドが繰り出すグルーブがすべてであって、DVDもそこをどう見せるかをよく考えている。 “OT自慢のグルーブ”が、映像として見られるDVDだ。
【 文:平山雄一 】
リリース情報
OKUDA TAMIO JAPAN TOUR MTR&Y2010 2010.12.24 C.C.Lemon Hall
発売日: 2011年04月13日
価格: ¥ 4,800(本体)+税
レーベル: KRE
収録曲
1.人間2
2.彼が泣く
3.恋のかけら
4.音のない音
5.ひとりカンタビレのテーマ
6.E
7.いつもそう
8.ハネムーン
9.海の中へ
10.サウンド・オブ・ミュージック
11.イオン
12.最強のこれから
13.花になる
14.イナビカリ
15.まんをじして
16.月を超えろ
17.SUNのSON
18.解体ショー
19.あくまでドライブ
20.イージュー☆ライダー