レビュー
小室哲哉 | 2011.05.06
「I’m just a music storyteller...」。訳すと、「たんなる音楽の語り部」とでもなるだろうか。このフレーズは、小室哲哉の22年ぶりのソロアルバム『Degitalian is eating breakfast2』の1曲目を飾る、KREVAと坂本美雨をフィーチャリングして鳴らされる「Vienna」にて、ラストに向け何度もリフレインされている。そして、このワードこそが、聴き進めていくうちに、同アルバムを標榜しているかのような重要かつ本質的なフレーズに思えてくる。
この『Degitalian is eating breakfast2』を聴き、"小室哲哉は、やはり<プレイイングマネージャー>なんだな..."と改めて気づかされた。いわずもがな<プレイイングマネージャー>とは「監督兼選手」の意。自身でもプレイし、采配もふるう選手のことだ。この<プレイイングマネージャー>に要求されるのは、やはり自身の確固たる戦術や流れや読み、そして、それをどうこの駒で戦っていくか?のジェネラルな適材適所な采配。やればすべてをこなすことができるが、それではプレイは成立しない。それを知っているが上の采配や他選手のに実践的な起用を心がけていく。
そして、この小室のアルバムも、作ろうと思えば全てひとりで作り得れただろうに、そこはあえてと思えるぐらい様々なラッパーやシンガーを男女問わず投入している。これぞまさしく、"自分のメロディーを活かすのは、この歌やラップで、この歌やラップを活かすにはこのメロディだろう"をキチンと察知し、洞察、把握できている者の成せるわざ。が、故に、このアルバムは、幅やバランスはもちろんなこと、聴き飽きない上に、聴き返す度に新たな発見が現れる内容となっている。
神々しさすら感じるきわめてヨーピアンなゴシックタッチの、KREVAと坂本美雨をフィーチャリングした「Vienna」、ZEEBRAによるガシガシな再宣戦布告とも思えるラップも勇ましい「奇跡」、22年ぶりに聴くことが出来た、自身のつたなくけっして上手くはない歌や、悠久や永劫さを思わせるメロディやサウンドも雄大な「ほほえみから」や「Carry on」、作品中最も従来の小室らしい楽曲やアレンジながらも、あえてVerbalのラップを入れることで、美しさだけに留めていない「Years Later」、アジアン的幻想的なメロディや演奏の上、Nipsey Hussleのラップがアジる「Reality」、インストながら聴く者のブレイブ感を煽る「Extream」、そしてラストは、TRFのYU-KI、大塚愛、GNDの千紗、浜崎あゆみ、持田香織、hitomi、DAIの伴、AAAのメンバーのボーカルリレーションも贅沢な、大団円的な「THX A LOT」をアルバムバージョンにて収録している。
この2枚目のソロアルバムがリリースされるまでの間の22年間には、小室自身にとって大きな音楽変動があった。それは、プロトゥールスやサンプラーや高いDTM日進月歩の機材やメゾッド、それにより誰もがミュージシャンになれるポテンシャルもさることながら、featuringとブラックミュージックのここまでの台頭だ。そして、その2つの要素は、より小室のソロアルバム然と輝かせるために、かなり大きな寄与を果たしている。前作と決定的に違うのは、新たに躍動感に横ノリやナナメのりが加わったところも見逃せない。
この22年の間、栄枯盛衰はあったにせよ、小室は90年には音楽界の寵児におり、音楽的語り部をきっちりと担ってきた。12曲目の「Anyton」では、こんなフレーズが連呼されている。「21st century music who you can bring back to the dream of my life」。出来れば、意味はみなさんで調べて欲しい。きっとなるほどと思っていただけることだろう。小室は今後も音楽の語り部を目指す!!
【 文:池田スカオ和宏 】
リリース情報
Digitalian is eating breakfast 2
発売日: 2011年05月04日
価格: ¥ 2,914(本体)+税
レーベル: エイベックス・マーケティング
収録曲
1. Vienna feat.Miu Sakamoto & KREVA
2. Go Crazy feat.Krayzie Bone & K-C-O
3. 奇跡 feat.Zeebra
4. ほほえみのちから《初回盤のみのBonus Track》
5. Every feat.Mitsuhiro Hidaka(AAA)a.k.a.SKY-HI & K-C-O
6. Years Later feat.VERBAL(m-flo)
7. Free My Mind feat. Mitsuhiro Hidaka(AAA)a.k.a.SKY-HI
8. L.W.R feat.Misako Uno, Naoya Urata(AAA) & Wataru Yoshida(Purple Days)
9. Reality feat.Nipsey Hussle
10. Extreme
11. Carry On
12. Ayrton feat.Naoya Urata(AAA)
13. THX A LOT(Album Version) / a-nation’s party