レビュー
真心ブラザーズ+奥田民生 | 2011.05.27
恥ずかしながら、僕が「My Back Pages」を初めて聴いたのは、オリジナルのボブ・ディランのものではなく、それをThe Byrdsがカバーしたものだった。そのギターのアンサンブルと12弦ギターのキラキラ感、そして、美しいハーモニーを先に聞いたものだから、後に本家ディランの「My Back Pages」を聴いた際には、アコギ1本の弾き語りで、ずいぶんとスローテンポ、それでいてかなりぶっきらぼうに歌ってるという印象を持った。なので申し訳けないが、僕の中での「My Back Pages」となると、=(イコール) The Byrdsバージョンとなっている。
このByrdsの他にも、ラモ―ンズやジャクソン・ブラウンを始め、これまで多くのアーティストにカバーされてきた、「My Back Pages」。今回は真心ブラザーズ+奥田民生のカバーが登場した。 とは言え、実はこの「My Back Pages」は、かつて1995年発表の真心ブラザーズのアルバム『KING OF ROCK』でもカバーされていた楽曲。彼らのライブでも何度か歌われ、2005年のボブ・ディランが脚本・音楽・主演を務めたコメディ音楽映画『ボブ・ディランの頭の中』にもオープニングに、他のアーティストによるディランのカバーに交じり、流れていたりもした。
そして、今回は奥田民生とのコラボが実現。3人による「My Back Pages」が制作された。
5月28日より全国公開される妻夫木聡と松山ケンイチ主演の青春映画『マイ・バック・ページ』の主題歌としても起用される同曲。昔から同じ事務所で親交が深かったものの、意外にもコラボレーションは初だったという。
前半部を民生が英語の原詞で歌い、中間部にYO-KINGが上記の日本語によるカバーの1番を挿入。その後、再び民生が英語詞で歌われた今回のシングル。上記のThe Byrdsのカバーにあったギターのアンサンブルは、アコギとエレキを中心に、真心のカバーにあったオルガンもThe Byrds的なキラキラとしたサウンドに差し替わり、そこに各々がディラン然とした、ぶっきらぼうだけど優しい、あの歌い方を乗せている。
演奏もドラム、ベースを民生が担当。他にも収まっている楽器類は全て3人でプレイされている。YO-KINGによる日本語部は、サビ部分に多少字詰まりな印象を受け、個人的には、”以前のカバーの方がスムーズで良かったかな・・・”と思いつつも、特筆すべきはやはりディランにも、真心のカバー時にも見られなかった、YO-KING、桜井、民生による3声のハーモニー!! うーん、これぞまさしくThe Byrdsのマッギン、ヒルマン、クロスビーだ!! あっ、そうそう、サイケデリックなアウトロにて広がっていくYO-KINGのブルースハープも、かなり聴く者の高揚感を煽ってくる。
そして、カップリングには、3人としては初の共作となった「絵」を収録。こちらは作詞、作曲を3人で担当し、ボーカル面では真心桜井も加わったもの。非常に広大感漂うナンバーだ。ここで歌われる絵はピクチャーではなく、思い浮かべる光景のこと。この歌を聴いた人がそれぞれにどのような光景を頭に思いうかべるのかも個人的には興味深い。
思えば、彼らも既に40代前半~中盤。きっと「My Back Pages」のサビで歌われる「I’m younger than that now. ~あのころの僕より今の方がずっと若いさ~」を、”いやー、まったくそうだね”なんて、実感しながら歌っていたことだろう。
齢は重ねていくが、それを経て得たことの多さ...。ここで歌われる"若さ"とは、けっして年齢や体力、パワーの類ではない。このYoung~若い~こそ、イキイキ、ビビッド、活力やバイタリティの集約の意。彼らとほぼ同世代と言える私も、むろん今、「I’m younger than that now. ~あのころの僕より今の方がずっと若いさ~」をヒシヒシ実感している。
【池田スカオ和宏】