レビュー

くるり | 2011.06.02

 ささやかだろうが、ダイナミックだろうが、幸せの価値は大きさでは計れない。
そんなことを改めて気づかせてくれる、くるりのニューシングル「奇跡」。残念ながら私は観に行けなかったのだが、今年3月の武道館公演の際には、既に初披露されていたと聞く。“その場ではきっと、歌内容に自身を投影させている人も多かったんだろうな….”と思わせる同曲は、ギターのつまびきに乗せられる岸田の寂寥感漂う歌声と、そこから各楽器類が加わっていくも、基本シンプルで、そう音数も多くないアレンジが印象的なナンバー。シンプルと書いておいてなんだが、音数的には、もうそれ以上の楽器は一切必要ないと言い切れるほどの充足さを誇っている。

 ささやかだけどほのかな幸せ感が、終始聴く者をゆっくりじんわりと包んでいき、アンニュイで優しい人肌感覚のコーラスやハーモニーも良い味を出している、このナンバー。うしろで深いエコーの中、たゆたうスティールギターやスライドギターが、浮遊感と共に楽曲に不変とも言えるエターナル感を醸し出しているのも特筆したい。

 6月11日より全国公開される是枝裕和監督の最新作『奇跡』の主題歌としても話題のこの曲。2011年3月に九州新幹線が全線開業されたことを記念し制作されたこの話題作の、家族愛や絆、それを支える市井の人々の愛情溢れる作品内容と、楽曲から醸し出しされているほのかな幸せ感がベストマッチしていると、試写を観た人からの感想も多い。そして、驚くべきは、この素晴らしい楽曲がたったワンコイン(¥500)で販売される事実だったりもする。

 ラストに向かう緩やかな上昇感と空を漂っているが如くを味あわせ、アウトロのどこまでも広がっていくサウンドスケープが、聴く者をほのかな永遠感に誘ってくれる同曲。シンプルに始まりながらも、気づけば惹き込まれ、最後には完全にその世界観に飲み込まれている、まさにそんなミクロTOマクロな楽曲と言える。
 1曲入りとあなどるなかれ。たかが500円とたかをくくるなかれ。正直、このCDは、他者の数曲入りのシングルや高価なCDよりも、数分の1の価格ながら永遠に楽しめる価値のあるもの。500円でも高いものは高い。だが、この「奇跡」の500円は、聴く者の中に残り続ける価値という面で、あまりにも安すぎなのではないだろうか。私なら、1曲入りながら1000円以上の価値を付けたい。<ささやかだろうが、ダイナミックだろうが、幸せの価値は大きさでは計れない>を、作品内容でもバリューでも、表わしているそんな作品だ。

【池田スカオ和宏】

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リリース情報

奇跡

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奇跡

発売日: 2011年06月01日

価格: ¥ 477(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

1. 奇跡
2. 奇跡 (Instrumental)

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