レビュー

吉井和哉 | 2011.11.16

吉井和哉が今春発売したアルバム『The Apples』は、ウィンテージな手触りをしながらも、それらに留まることなく、打ち込みや他の機材も駆使し、<今ならではの古臭い音>を吉井流に鳴らした作品であった。そして、それを引っ提げてのロングな全国ツアーを経て、そこで得た新たな手触りを作品として表わしたのが、この「After The Apples」と言えるだろう。

意外にも今作は、吉井にとってキャリア初のミニ・アルバム。タイトルから前作の延長戦やアフターワーク、もしくは正反対的に機材を駆使した作品を予想していたが、それらは全てはずれ。結果は、ヴィンテージさとオルタナ感やシュ―ゲイズ性、そして、ロードムービー的手触りの作品であった(個人的印象)。

ざらざらとした手触りと、くぐもった歪みを有したオルタナ感たっぷりなギターやベースと、それを支えるループ感たっぷりのチープなリズムマシーンも冴えるM-1.の「無音dB」、ブギーの効いた左右のギターとオーケストラヒット、そして、諸行無常感を感じる歌と悲しさを帯びたメロディも印象的な「Next Innovation」、どこかウェスタンや南部っぽさと乾いた赤い砂を想起させる、市井の家族を歌ったブルージーな「母いすゞ」、そして、前曲と近い手触りをした「ダビデ」、売って変わってタイトなドラムと、ダンサブルさと近未来的な上昇感のあるシンセ上、ノイジ―吉井の歌い方もスリリングな「バスツアー」。ハイエナ感溢れる歌詞内容と、少ない楽器数とコード、浮遊感溢れるノイジ―なギターと雰囲気で描きだす、コーラスも斬新な雄大で徐々に陽が昇っていくようなライジング感もたまらない「Born」らが収まっている。

重複するが、別にどこかに行ったり、情景的ではないのに、何故かロードムービー的な手触りを感じる今作。その理由を色々と考えたり、調べているうちに、今作が彼がこの春?夏にかけ行った長期のロングツアーの後に作られたものだと知った。ということは、これらの楽曲たちはツアーの旅先でメモされた断片から生まれたものだろう。その土地土地で、動くことのない市井の人たちが歌われているはずなのに、どうして今作から旅を想起したのか?に今、気づいた。

【 文:池田スカオ和宏 】

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リリース情報

After The Apples

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After The Apples

発売日: 2011年11月16日

価格: ¥ 2,858(本体)+税

レーベル: EMIミュージックジャパン

収録曲

ディスク:1
1. 無音dB
2. Next Innovation
3. 母いすゞ
4. ダビデ
5. バスツアー
6. Born
ディスク:2
1. ACIDWOMAN (SENDAI RENSA)
2. VS (SENDAI RENSA)
3. 欲望 (SENDAI RENSA)
4. おじぎ草 (SENDAI RENSA)
5. 球根 (SENDAI RENSA)
6. クランベリー (SENDAI RENSA)
7. プリーズ プリーズ プリーズ (SENDAI RENSA)
8. ビルマニア (SENDAI RENSA)
9. FLOWER (SENDAI RENSA)
10. シュレッダー (TOKYO INTERNATIONAL FORUM HALL-A)
11. LOVE & PEACE (TOKYO INTERNATIONAL FORUM HALL-A)
12. ONE DAY (SENDAI RENSA)

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