“ピアノと歌”を軸にしながらも大らかな広がりを持ったサウンドメイク、”もっと強くなって、あなたのことを守りたい”という切実な思いが伝わるリリック、そして、リアルな心情を無理なく伝えつつ、音楽的な深みを感じさせてくれるボーカル。今年５月、シングル「あたし、今日、失恋しました。」でデビューした大阪出身の女子高生シンガー・ソングライター、沢井美空の２ｎｄシングル「なきむし。」は、彼女の奥深いポテンシャルをはっきりと示す、尽きることのない魅力をたたえたバラードナンバーに仕上がった。 「前回もゆったりとした曲調ではあったんですけど、今回は少し壮大なイメージというか、もうちょっと大きな曲にしたかったんですよね。”大切な人を守るために強くなりたい”というテーマに沿って書いていったんですけど、どう表現したらもっと伝えられるかな？って考えて、試行錯誤を重ねました。特に歌詞にはかなり時間をかけてます」

　デビューからの半年の間、「間延びすることなく、自分なりにきちんとやっていこうと思って、新たな曲作りをしたり、以前書いた曲をカタチにたりしていました」という彼女。現状を見つめつつ、自らの音楽性を広げていこうとする態度??彼女はまだ、１０代の高校生なのだ??は、「なきむし。」のソングライティングにも反映されている。その中心にあるのは、”楽曲のメッセージ、世界観をできるだけ多くの人に伝えたい”というきわめて真っ当な姿勢だ。

「ふだんは（楽曲の主人公を）”あたし”って表記することが多いんですけど、曲によっては女の子にしかわかりづらかったり、共感しにくいこともあると思うんですよね。特に『なきむし。』は性別に関係なく、いろんな人に共感してもらいたかったので、”僕”という書き方をしました。女の子が聴いても、そのまま自分に置き換えてもらえるんじゃないかなって。けっこう自分のことを書いてる部分もありますね。すぐ弱気になるし、泣いちゃうんですけど、そういう自分がホントに嫌なので。この曲は上京したばかりの時期に書いたから、特にそういう気持ちが出ているのかもしれないです」

　２曲目にはポップな手触りの「低空飛行の鳩」を収録。ただ単に“聞きやすくて、楽しい”というだけではなく、「聞くたびに“こういう意味もあるのかな？”っていろんな解釈をしてもらえるような、奥深い曲にしたかったんです」と彼女は言う。
「学校に自転車で通っていたとき、鳩が低いところを飛んでいて、“危ないよ、轢かれちゃうよ”って思ったのがこの曲を書いたきっかけ。でも、それだけだと単に鳩の歌になっちゃうじゃないですか（笑）。もうちょっと痛いところを突くというか、メッセージ性のある曲にしようと思ったんですよね。ここで満足しないで、高いところに羽ばたいていけば、もっと大きくなれるはずっていう」

　そして3曲目に収められた「幸せになってね」、身近なテーマを普遍的な楽曲へと結びつける、彼女の高いソングライティング・センスが感じられる。
「高校1年のとき、友達から聞いた恋愛話がもとになってるんです。いまの私たちの世代というか、思春期の淡い感じが出せたらいいなって。恋愛の話はいまもけっこうしますよ。私自身のネタがないだけで（笑）、いろんな人の恋愛観を知っておくのは、曲を書くうえでも大事なことなので」

「あたし、今日、失恋しました。」と同様、同世代の女子を中心に大きな共感を呼びそうな「なきむし。」。まだデビューして半年ほどだが、彼女はしっかりと自らの音楽性を見据えながら、“その先”へ進もうとしている。
「2作ともピアノメインのゆったりとした曲なんですけど、そのイメージを続けるのもアリだと思うし、ぜんぜん方向性を変えて“あ、こう来たか”っていうのもいいなって。大きなふり幅のなかで、ミステリアスな部分だったり、“結局、どういう人なの？”っていう不思議な感じも大切にしていきたいんですよね。もちろんマジメに音楽をやっていくんですけど、予測がつかないこともやっていきたいと思います。“遊び心を持って、遊びじゃないことをする”っていうのが、最近考えた目標です（笑）」

93年9月16日生まれ、大阪出身のシンガー・ソングライター。2011年5月11日にシングル『あたし、今日、失恋しました。』でデビュー。直接胸に訴えかけてくる詞と、インパクとのあるタイトルなどが話題を呼び、同世代を中心に人気上昇中。デビュー前に歌詞検索サイトで1位、有線の問い合わせチャートでも2位にランクインし、全国16のラジオ局でパワープレイを獲得した。若干18歳と現役高校生ながら、すでに100曲以上のデモを持つ。