レビュー

アンジェラ・アキ | 2012.01.10

 映画にしろ、ペーパーバックにしろ、詩にしろ、歌詞にしろ、芸術作品の翻訳で最も大切なのは、ニュアンスだったりする。そのまま直訳しても、細かい部分はたぶん伝わりづらいだろうし、意訳過ぎては、原曲に込められた想いを蔑ろにする懸念がある。そこには翻訳者の思い入れや感情、そこで描かれている背景やその後も加味され、同じ原典でも違った言葉づかいや表現で伝えられる。
そして、このアンジェラ・アキのニューアルバム『SONGBOOK』は、彼女の解釈による洋楽ナンバーの日本語カバーたちが収まったもの。シンプルな分、言葉とメロディのベストマッチと、そこに込められる感情を着地点に制作されたような今作は、まるで自身の歌のように響き、歌う時にも、より感情移入がなされている。

 NHK番組「アンジェラ・アキのSONGBOOK in English」にて彼女が披露する6曲に加え、デビュー以来、創り続けた洋楽日本語カバーの新曲&新録を収録した今作は、ピアノの伴奏のみで歌われるとてもシンプルな表現のもと、ビリー・ジョエル、ジャニス・イアン、ボズ・スキャッグス、マドンナ、シンディ・ローパー等のスタンダード曲に加え、意外なところでは、オルタナのスマッシング・パンプキンズ、レディオヘッドと、本来はギターサウンドのところをあえてピアノの弾き語りにしたところ(レディオヘッド「Creep」のガゴッギターも上手くピアノで表現)。また、ピアノロックのベン・フォールズ、はたまた、コーラスグル―プのボーイズ・トゥー・メン等が、彼女の深く感情移入たっぷりの歌声により、まるで彼女のオリジナルと称しても遜色なく響く。
そして、そんな中でも特筆すべきは、どの曲も最も大切にしたと思しきところはあえて英語詞のまま歌われているところ。この部分こそ、彼女がどんな自分の言葉で表現するよりも、あえて原詩のままの方が伝わると配慮してのことだろう。その証拠に、この英語の部分もしっかりとまるで日本語に和訳されているかのように意味や歌の深意が伝わってくるから不思議だ。

【 文:池田スカオ和宏 】

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SONGBOOK

発売日: 2012年01月11日

価格: ¥ 3,048(本体)+税

レーベル: ERJ

収録曲

1・Honesty (ビリー・ジョエル)
2・Will You Dance?(ジャニス・イアン)
3・ We’re All Alone (ボズ・スキャッグス)
4・Material Girl (マドンナ)
5・True Colors (シンディ・ローパー)
6・Without You (バッドフィンガー)
7・Today (スマッシング・パンプキンズ)
8・Kiss From A Rose (シール)
9・A Song For You (レオン・ラッセル)
10・Creep (レディオヘッド)
11・Still Fighting It (ベン・フォールズ)

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