“この曲を聴くと、なんだかあの頃のことを思い出すなぁ……”
こんな感じを一度は経験したことがあるのではないだろうか？あの現象のことを、“サインミュージック”というそうだ。
　その現象をタイトルにした島谷ひとみの新作『Sign Music』は、“童謡”のカバーアルバム。「故郷」「夏の思い出」「赤とんぼ」「シャボン玉」といった、日本で古くから歌われてきた曲達に、m-floやクリスタル・ケイ、山崎まさよし、椎名林檎など、様々なアーティストのリミックスを手がけている「jazztronik」の野崎良太が、大胆かつ繊細なマジックをかけた。“童謡”と聞くと、どこか物悲しかったり、薄暗い雰囲気を感じてしまうものだが、そんなものは一切皆無。ジャズ、ボサノバ、ラテンミュージックといったアレンジによって、誰もが一度は子供時代に聴いたこと、歌ったことがある曲達が、上質なラウンジ・ミュージックに変化を遂げている。

　ただ、そんな多国籍なアレンジが施されているにも関わらず、曲を聴くと目に浮かんでくる風景は、日本の四季や自然といった、とてもドメスティックなもの。そう感じさせるのは、“童謡”が持つノスタルジックな部分を、しっかりと表現している島谷ひとみの歌唱力だ。優しく、切なく、ときに力強い歌声が、とても心地よい。日本人のDNAに深く刻まれている「共通の記憶」に対しての新解釈的作品だ。

【 文：山口 哲生 】