レビュー
椎名林檎 | 2012.05.17
東京事変解散から約3ヶ月、椎名林檎が新曲「自由へ道連れ」を配信限定でリリースした。TBS系日曜劇場「ATARU」の主題歌でもある本作を一聴した瞬間、誰もがワイルドにギターをかき鳴らすロックモード全開な椎名林檎を思い描いただろう。
本作の演奏陣である、ギター:ハヤシ(POLYSICS)、ベース:石原聡(GOING UNDER GOURND)、ドラム:桜井誠(Dragon Ash)の3人は、なんと、全員彼女と同い年!日本のロック界で熱い支持を受け続けている強力なメンツが、曲の中で嬉々として暴れ回っている。
そんな「自由へ道連れ」は“楽曲提供のために書き下ろした曲”とはいえ、彼女のキャリアとしては東京事変解散後の初作品であり、重大な転機を迎えた“椎名林檎の今”がしっかりと刻まれている。
東京事変として活動している最中にドラマ主題歌として書き下ろし、椎名林檎名義としては久々の作品となった「カーネーション」に、こんな節がある。<風に揺れ雨に晒され/遥か空へ身を預けて/..生きよう..>。そして「自由へ道連れ」には<雨が止んで風が吹いて/絡み付いた縄解くとき>と綴られている。もちろん、どちらもドラマの主題歌なので、それありきのところもあるのだが、これが偶然とは考えづらい。孤独ではありながらも、再び高みを目指し歩き始めた“一人の音楽家”の姿が浮かび上がってくる。今回の演奏陣に関しても、再び「椎名林檎」として活動を始める際に、同い年という気の置ける間柄であり、シーンの最前線で活躍している同士達の力を借りて、瑞々しくて、エネルギッシュな楽曲に仕上げたかったのだろう。そのサウンドは、かつて同じく活動の転機に世に放たれた曲──ソロ名義での活動を一旦停止し、東京事変として動き始めたその第一声である「群青日和」の痛快さを、ふと思い出させる。
とはいえ、そんな推測をされることを、きっと彼女は承知の上。そんなことなどおかまいなしに、軽やかに、そして力強く高鳴らされる“自由”が、最高に気持ちいい。
【文:山口哲生】