レビュー

桑田佳祐 | 2012.07.18

 ヒット曲や新曲に圧倒されるのはもちろんだが、桑田佳祐がソロを名乗る前に関わった貴重なトラックが収められているのにも注目したい。完全生産限定盤に付いているボーナスディスクは、いとうせいこうとラップしている「ジャンクビート東京」などレアトラック揃い。中でも、小林克也&ザ・ナンバーワン・バンドに桑田が嘉門雄三・名義で参加している「六本木のベンちゃん」(1982年作品)がおススメだ。

 小林は日本最高峰のラジオDJのひとりであり、桑田とはサザンの初期から交流が深かった。軽快なしゃべりの一方で、一本筋を通すロック・スピリットの持ち主。性差別などの社会問題にも一家言あり、そんなところも桑田の反骨精神と通じていた。その二人がゲイのカップルを演じるこの曲、ちょっと悲しくて、いっぱい笑える。サウンドはベンチャーズを下敷きにしていて、その意味でも一本筋の通った“音楽ネタ”のユーモアソングである。僕は80年代中盤に新宿・ツバキハウスで行なわれたザ・ナンバーワン・バンドのライブを観たが、観客は小林や桑田のあまりにぶっ飛んだパフォーマンスに驚きながら笑っていたものだった。

 「月」の演歌に通じる深い孤独や、「ROCK AND ROLL HERO」に込めた痛烈な批判など、桑田の音楽に内在する毒の本質は“弱者に対する優しさ”だ。それを情け ない笑いを通して表現した「六本木のベンちゃん」は、今も色褪せない。音楽を表面的なかっこよさや強さだけで捉えるのでなく、もっと人間くさい風俗や笑いと結び付けて表現してきた桑田の、多彩な神髄を味わえる“スペシャル・ベスト・アルバム”だと言いたい。

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル 桑田佳祐

リリース情報

I LOVE YOU -now & forever-

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I LOVE YOU -now & forever-

発売日: 2012年07月17日

価格: ¥ 3,143(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

1. 悲しい気持ち(JUST A MAN IN LOVE)
2. 今でも君を愛してる
3. いつか何処かで(I FEEL THE ECHO)
4. Kissin’ Christmas
5. 漫画ドリーム
6. 真夜中のダンディー
7. 月
8. 祭りのあと
9. 波乗りジョニー
10. 白い恋人達
11. ROCK AND ROLL HERO
12. 東京
13. 可愛いミーナ
14. 明日晴れるかな
15. 風の詩を聴かせて

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