レビュー
電気グルーヴ | 2013.02.27
電気グルーヴが“巷の電気グルーヴのイメージ”を上書きした新作。通算13枚目となるニュー・アルバムのタイトルは『人間と動物』。全曲歌ものの本作は、テクノという印象は薄く、強引に形容するなら、石野卓球とピエール瀧ならではのダンスミュージック集とでも言えるだろうか。ニューウェイヴやヒップホップを筆頭にロックやポップスまでと、雑多で豊富な自分たちのルーツに自然に対峙したら、こんなの出てきました、という感じ。ゆえに、自由でフラットで聴き心地、抜群。歌ものでも無理なく“電気グルーヴらしさ”を醸し出している。
前述した聴き心地の良さは、アルバムをリピートさせる効果につながっているが、全曲歌もの以外にもその要因はまだある。収録曲9曲中、8曲がBPM125。さらに収録時間が約47分(LP1枚分)というポイントだ。
つまり。全曲歌もの、BPM125、収録時間LP1枚分……というのが、今作の目立った特徴。この「制作過程で出てきた縛り」(本人談)という条件が、結果的にはアルバムコンセプトにつながり“聴き心地抜群”という作品の魅力になった。
収録曲の中でも「Slow Motion」(M6)は、電気グルーヴの歴史になかったパターンの1曲。メランコリックな曲調が新鮮。歌詞も相変わらず意味なし&鮮烈ではあるが、なぜかちょっと切ない。トラックやメロディーのムードが、結果として言葉に意味を持たせたと言える1曲である。
これまでの彼らの作品の中でも、聴く人を選ばない指折りのキャッチ―さを備えた1枚となった『人間と動物』。全曲、鼻歌できる(ごめんなさい!)のが、その証拠、かも。
ちなみに。クールでポップで、ちょいシュールなアルバムジャケットは、元メンバーの砂原良徳がデザインを手がけた。アルバムタイトル『人間と動物』も、このデザインがあって出てきた言葉だったのだとか。
……って、パンダって、じつは珍獣だと思うの。
【文・伊藤亜希】