レビュー

きゃりーぱみゅぱみゅ | 2013.09.18

 8月8日、TOHOシネマズ六本木で『劇場版きゃりーぱみゅぱみゅ』ワールドプレミアイベントが行われた。このイベントはきゃりーぱみゅぱみゅが今年2月から開催してきた初の世界ツアー「100%KPP WORLD TOUR 2013」に密着したドキュメンタリー映画を上映する一夜限りのプレミアムな内容で、全国8都市の劇場にアルバム『なんだこれくしょん』購入者から抽選で500組1,000名のみが招待されたもの。なかでも東京・六本木ヒルズの劇場には、きゃりー本人が会場に駆けつけ、一般のお客さんにまじって座席で鑑賞するという嬉しいサプライズも実現!かくして、きゃりーが「素の自分が出すぎて心配……」と打ち明けた、初のワールドツアー完全密着ドキュメンタリーの上映がスタートした。

 上映が始まり、まず思い知るのはこの映画が大成功と謳われるワールドツアーの華々しいうわべだけを掬った物語ではない、ということだった。「海外ツアーを決まった時、あまりノリ気じゃなかった」「心の中は不安でいっぱいだった」と、公演前の心境を振り返るきゃりー。蓋を開けてみれば「大成功」の文字が躍る初の海外ツアーだったが、そもそも初めは誰もそんな結果を予想さえしていなかった。異国の地、ここには自分の味方がいないと不安を抱くきゃりーの孤独が開始早々スクリーンからは強く伝わってくる。

 しかし、快進撃は初日ベルギー公演から始まる。開演前から楽屋に聞えてくるきゃりーコール。ライヴが始まれば、きゃりーの歌に合わせて日本語で大合唱が起こった。中田ヤスタカ(CAPSULE)が生み出す独特の日本語詞の歌を外国人のファンたちが大声で合唱する。そして予想外の大成功を収めたヨーロッパ公演の一方で、どん底を見た日本公演。ライヴ中盤の盛り上がりが微妙に足りない、終演後のTwitterに音楽的な感想以上に「かわいい」という見た目への書き込みが多いことへの違和感。きゃりーと彼女に近しいスタッフにしかわからないようなそんな些細な異変をしかし、一夜で修正して翌日のリハーサルに新たな覚悟で挑むきゃりーの姿がたくましかった。そこには文字通り世界を股にかけてライヴ展開しながら、めまぐるしく変化していくきゃりーの心境が余すところなくとらえられている。

 このドキュメンタリー映画では最初にこんな印象的な疑問が観客に投げかけられた。 「なぜ世界は彼女と一緒に歌ったのか」。

 その答えの一つとして映画の中で各国のファンがきゃりーの魅力を語る時、口をそろえて言う言葉があった。「to be yourself」=自分らしくあること。それは、おそらくきゃりーが表現するオリジナリティー豊かな作品群を指すのと同時に、きゃりー自身が私たちの周りにどこにでもいるハタチの女性と同じように、悩んだり傷ついたりしながらも「自分らしさ」を求めて闘い続けるファイターであるという事実、そのリアルな存在感にこそ、彼女が多くの人を惹きつける原動力があるということだ。世界中のきゃりーファンがYouTubeに映るきゃりーぱみゅぱみゅを通して見たものは、原宿文化を世界へ発信するアイコンとしての彼女ではなく、もっとずっと生々しく、自分らしく生きることに命を燃やす同年代の女性の姿だったのかもしれない。だから共感できる。だから世界は彼女と一緒に歌うのだ。このドキュメンタリー映画には、そう確信させる説得力があった。

 映画の最後にきゃりーが言った「ワールドツアーをやってよかった。楽しかったです」という一言は、私にはとても感動的に響いた。はじめは「ノリ気じゃなかった」出発点から、数えきれないほどの困難を乗り越えてたどり着いたゴール地点。そのシンプルな一言は、まるでスポーツ選手のヒーローインタビューのように爽やかな興奮と安堵感、そして何よりも大きな達成感に満ちていた。

【取材・文:秦理絵】

リリース情報

なんだこれくしょん

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なんだこれくしょん

発売日: 2013年06月26日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン

収録曲

1.なんだこれくしょん
2.にんじゃりばんばん
3.キミに100パーセント
4.Super Scooter Happy
5.インベーダーインベーダー
6.み
7.ファッションモンスター
8.さいごのアイスクリーム
9.のりことのりお
10.ふりそでーしょん
11.くらくら
12.おとななこども

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