レビュー
音速ライン | 2013.10.16
つらい出来事に打ちひしがれたとき、人はその不幸を嘆き、運命を恨みもするけれど、やがては立ち直って前へと進んでいく。そして、これまで以上に強く、たくましく、前へと踏み出すことができる。音速ラインの最新アルバム『from shoegaze to nowhere』を聴いたとき、これは“悲しみの次の一歩”の作品だと思った。それでも生きなくてはならない――本来、人に備わっている、そんなタフで悲しい本能に忠実に従った、とても人間らしいアルバムだ。
切り裂くようなドラムから幕をあける今作は、音速ラインの本性とも言えるハードなロックサウンドが際立つ。いつになくバラエティに富んだ音のつくりにも迷いがない。
アルバムの中盤、《ただ悲しみの果てに君と 歩き出す事 ただそれだけの事》と歌う、「傘になってよ」は、藤井敬之(Vo・G)が生み出す切ないメロディが駆け抜ける10年前から変わらない音速ラインのギターロック。だが、こんなシンプルな1曲にもいまだからこそ言える強いメッセージが込められていた。昨日でも、明日でもなく、大切なのはいま。今作で歌われるのはたったそれだけのことだ。音速ラインの活動を長く支え続けるアートディレクター箭内道彦が歌詞を手がけた「ありがとね」が、“いま伝えておかなければ手遅れになる”という切実な感謝の歌になったのも、そんなバンドのモードを鋭敏な感性で受け取った結果だろう。
答えも正解もない未来に向けて、希望を歌えるはいつも明確な意思を持った表現者だけだ。10周年を迎えた音速ラインはそういう場所で音を鳴らしている。
【文:秦理絵】