レビュー
plenty | 2013.12.04
plenty『r e ( construction )』
plentyはタイトル名人
plentyと 最初に「出会った!」と感じたのは、1st EP『人との距離のはかりかた』だっ た。このEPのタイトルに、ピンとくるものがあった。このソングライターは、コミュニケーションを大きなテーマにしていると思った。同時に、アルバムにしても曲にしても、タイトルをつけるのがすごく上手だなと思った。
実際、plentyの1stミニアルバムは『拝啓。皆さま』で、2ndが『理想的なボクの世界』、そのツアーが「理想的なキミの世界」で、追加公演が「ボクたちの世界」だった。この明快な言葉遣いは、タダ者ではない。自分たちとリスナーとのスタンスを、的確に捉えている。
ボーカル&ギターの江沼郁弥は、“僕”、“君”、“距離” をキーワードにリリックを書いている。その歌詞は、タイトル同様、とても機能的で、僕と君の距離や、僕と僕の距離が正確に描かれている。 その核にあるのは“コミュニケーション不全”そのものではなく、そこから出発してなんとかコミュニケーションを取ろうと努める健気な青年の姿だ。
新作の『r e ( construction )』 は、これまで発表した曲をバンド・スタイルとは異なるアレンジで再構築=re-constructionしたものだ。その意味で言うと、今回のタイトルはちょっと普通なのかもしれない。ただ収められている楽曲は「待ち合わせの途中」とか「普通の生活」とか、魅惑的なタイトルが多い。そして江沼はこのアルバムで、言葉だけでなく、サウンドも理想に近づけようとしている。おそらくそれは、大切な言葉を運ぶ彼の声を、最大限に活かす楽器編成やアレンジを模索してのことだろう。そうして、その試みは成功している。
初期のユーミンを思わせる「理由」のストリングスは、江沼の繊細な声と良い対比を成している。また「人との距離のはかりかた」では、くるりのサポートをしていたピアノの世武裕子が、名作『魂のゆくえ』を彷彿とさせるプレイでクールな江沼のボーカルに大地の温かさを添えている。♪言葉にするだけ無駄かもな でも言葉にしなくちゃダメだよな♪という決意のフレーズが、よりはっきりと聴こえてくる。江沼のメロディは細部まで丁寧に練られているが、その輪郭を世武をはじめとするニューサウンドがしっかりサポートしているのだ。
今、plentyの他にも、星野源やクリープハイプなど、タイトル名人がいる。「穴を掘る」や「ばかのうた」(星野)、『死ぬまで一生愛されてると思ってたよ』や「社会の窓」(クリープハイプ)などは、リスナーの興味を引きつつ、内容と非常にうまくリンクしていて、同じ時代に生きるタイトル名人たちの群像が見えてくる。タイトルだけで断言することはできないが、J-ROCKシーンに優れたソングライターが続々と生まれてきていることは確かだろう。
ちなみに平山のいちばんのお気に入りのplentyの歌のタイトルは、「最近どうなの?」だ。この人を食ったソフトな感じがたまらない。
そして江沼の内にあるヒビは、僕と僕の距離にあるヒビより も、僕と君の間にあるヒビの方が、ずっと魅力的だと思う。だから彼は、とても色っぽい。
【文・平山雄一】