まだデビュー間もない頃の秦 基博が、あるショッピングモールでフリーライブを行った日のことをよく覚えている。弾き語りで演奏したのは5曲ほどだったと思う。100名ほどが集まった広場には、曲が進むごとに人が増えて、最終的にはあぶれた人並みが吹き抜けの2階、3階まで広がりステージを見下ろしていた。ギター1本と歌だけで、そこに居合わせた買い物客の足を止めてしまう。秦 基博はそういう歌い手だ。
　だから秦のライブはいつもシンプル。抽象的なモチーフや映像、ハイセンスなライティングの演出はあるけれど、音楽が主役の場所でそれらはあくまでも名脇役になる。

　そういう秦 基博のライブを知っていると、昨年末に行われた映像作家・島田大介とのコラボレーションライブ「Hata Motohiro Visionary live2013 -historia-」はまさに目から鱗だった。
　ステージに歯車、灯篭、小屋という舞台装置の置き、最新の映像技術プロジェクションマッピングを駆使した映像の演出。それらは秦の歌に、より豊かな奥ゆきと物語性を持たせたていた。このライブを観れば、ギター1本と歌声だけでも十分に伝える力を持ったシンガーソングライターが、なぜそんな試みをしたかがよくわかる。表現者がほんの少し自分の殻を破るだけで、音楽はどこまでも自由になれるのだ。新しい表現方法でより深く広がった秦 基博の世界観を今回リリースされるDVD / blu-rayでぜひ確かめてほしい。

　そしてそんな秦 基博のスタンスは、エレクトロとアコースティックなサウンドが生々しく混じり合う最新シングル『ダイヤローグ・モノローグ』にも溢れている。こちらもぜひその耳で確かめてもらいたい。

【文：秦理絵】