レビュー
濱口祐自 | 2014.06.18
濱口祐自
『濱口祐自 フロム・カツウラ』
縄文ギタリスト、熊野から登場!
アーティスト写真を見て、「このオッサン、何人?」と思わずつぶやいてしまった。濱口祐自は、和歌山の熊野・勝浦からこの度58才にしてデ ビューを果たしたギタリストだ。
変則チューニングを施したアコースティック・ギターから繰り出されるのは、“独奏”を基本にしたブルース・スタイル。ジャック・ジョンソンの登場で何度目かの注目を集めたアコースティック・ブルースだが、あちらは“グルーヴの復権”がテーマだった。だが、濱口は6本の弦をフルに使って一つの音楽を構成するストロング・スタイル。古典と言える奏法に独自の工夫を加えて、ブルースに限らず、ラテンの名曲「黒いオルフェ」や、エリック・サティなどのクラシックまでを演奏する。そこが濱口のオリジナリティだ。
ブルース・ギターは、アメリカの辺境の地に生まれた。代表的ギタリスト、ロバート・ジョンソンは、最高のブルースマンになるために、十字路で悪魔と契約を交わしたという伝説がある。彼の名曲「クロスロード(十字路)」は、その後、エリック・クラプトンにもカバーされた。
熊野を辺境と言うかどうかは分からないが、この土地は非常に特異な性格を持つ。その昔、都から熊野に追放された貴族が、いきなり国家に対する反逆者になってしまうことが多々あった。貴い者が一夜にして賤しい者に転じてしまうのである。もちろん、その逆もあった。熊野にはそうした人間の変転を受け入れる、器の大きさが太古よりある。言い方を替えれば、人間の貴賤は、ただの“人間の都合”によって決められているだけなのだ。古代から人が暮らしてきた熊野には、そんな人間の都合に左右されない大自然と、それに見合った心がある。
濱口の表情やギター・スタイルからは、聖なるものと、俗なるものが同時に感じられる。彼は熊野という聖と俗、貴と賤のクロスロードに生まれ、生活してきたことで、この特質を体内に培ったように思う。そうしたダイナミックな人間性を、楽器を通して表現する、まこと、名人と言うべきだろう。
今のバンドマンの中に、こうした自己表現ができる者が何人いるのか。仲井戸麗市や中村達也は、数少ない名人だ。濱口も彼らと同じ匂いがする。楽器演奏の深層に興味のある人は、このアルバムを聴いてみるといい。
そして、最初の問いに自分で答えるならば、濱口は現代日本 には希少な古代日本人=“縄文人”なのだと思う。
【文:平山雄一】
リリース情報
濱口祐自 フロム・カツウラ
発売日: 2014年06月18日
価格: ¥ 2,800(本体)+税
レーベル: 日本コロムビア
収録曲
1.ドクトル・O(オウ)のラグ Dr.O’s Rag
2.エスニック・ウィンド Ethnic Wind
3.ジェロニモ Geronimo
4.グノシエンヌ 1番 Gnossiennes no.1
5.ビッグ・シティ・フェアウェル
6.秋の花びら ~アメイジング・グレース
7.バンブー・ブルース
8.ヘキサゴン・ブルース
9.黒いオルフェ
10.せつない香り
11.テネシー・ワルツ
12.ブルース・フロム・カツウラ
13.遠足
14.旗のもとに集まろう