レビュー
クリープハイプ | 2014.07.23
クリープハイプ
「エロ/二十九、三十」
30才にして持つ、ささやかな勇気
シングルの両A面のうち、ミディアム・バラッドの「二十九、三十」が好きだ。僕の印象では、尾崎世界観は何気なしに年齢のことを言ったりする。「もう僕も28才ですからね」とか、ふと漏らすのだ。ただし、彼が自分の年齢のことをどう考えているのかは、聞いたことがない。「二十九、三十」というタイトルは、たぶん今年30才になる彼の年齢のことだと思う。
その昔、奥田民生がソロ・デビューしたとき、30才の誕生日を挟んで『29』と『30』という傑作アルバムを1年間に2枚発表した。『29』には♪充分休んでから行こう♪と叫ぶ「愛のために」が、『30』には♪休みが必要だ♪と歌う「コーヒー」が入っている。これがそのまま奥田の“30才観”とは言えないが、どちらにしても奥田のマイペースなイメージは、これらの歌から生じていたりする。
尾崎の“29~30才観”は、♪いける様な気がしてる♪なんて強気が、ポロリと飛び出す一方で、空気清浄機に生まれ変わるのもいいかなと、居場所のなさを嘆く。そして最後は、ちょっとズレながらも前へ進めと歌う。
アーティストが年齢のことを歌うのは、割と珍しい。奥田も尾崎も、何か思うところがあって歌を書いたのだろう。それが両方とも“30才”というのが面白い。確かにティーンエイジャーからバンドを始めて、10年以上のキャリアを積んだとき、達成感と共に覚悟を迫る何かが30才前後に訪れる。体力的な限界にはまだ遠いから、その覚悟は自分と社会との関係にまつわるものだ。尾崎は不遇の時代が長かったから、社会に対する懐疑心や自信の無さが根底にある。それは一見、彼の弱みのように見えるが、クリープハイプの個性を形作る重要なファクターにもなっている。いつも不安を抱え、裏切りに怯える人間が、恋や音楽に立ち向かうから、多くの同族の共感を呼ぶ。
ようやくブレイクの第一段階を果たしたクリープハイプは、 今まで味わったことのない自信を得ると同時に、自信を持ったからこそ、今まで経験したことのない不安を持つことになった。「二十九、三十」は、その“負の部分”をきちんと踏まえている。この歌から醸し出される尾崎のイメージは、きっと“ささやかな勇気”だ。だから、♪ずっと今まで言えなかったけど サビなら言える♪ってフレーズが、とても尾崎らしくて泣けるのだ。
【文:平山雄一】