レビュー
高野寛 | 2014.08.06
高野寛 『TRIO』
少年性を残す、大人のヒビ
よく女性が理想のタイプとして挙げるのに、“少年っぽさを残す男”というヤツがある。ちょっとカッコいい感じがしないでもないが、男性側から言えば“少年っぽさを残す男”は「ちょっと青臭いんじゃないの」という意見もあるだろう。一見、誉め言葉のように聴こえるが、「まず、ちゃんとした大人の男になりなさい」と言いたいわけだ。だが、もしちゃんとした大人で、かつ少年の感覚を持つ男がいたら、それは男性側からも支持される。今年、デビュー25周年を迎える高野寛は、そんな“少年っぽさを残す男”だ。
アニバーサリー・アルバム『TRIO』は、新曲とセルフカバーで構成されるブラジル録音。高野がブラジルに単身乗り込んで、ブラジル人の親友と、彼の紹介で知り合ったベーシストの3人でセッションして作り上げた。高野は緻密な宅録が得意とするが、今回のサウンドはそれとはまったく異なる息吹がある。まず、この“セルフ冒険心”が少年らしい。
さらに、「最近の自分の歌の主人公は立派になり過ぎているんじゃないか」と思って書いた「一分間」という曲では、♪大事なことを伝えるときほど 君の目を見て話せなくなる♪と歌う。
デビュー以来、文学的なリリックと繊細なサウンドで独自の世界観を築いてきたこの男は、THE BOOMの宮沢和史と行動を共にして世界各地を旅し、高橋幸宏周辺のミュージシャンと交流しながら、タフな人間に成長した。今回の『TRIO』で聴けるサウンドは、そのタフさの表われだろう。一方で、リリックでは心の奥底にある“少年性”を、改めて発掘しようとしている。無自覚に持っていた少年の部分を乗り越えようとしたキャリアを経て、自分が生涯持ち続けるアーティストとしての個性を自覚的に刻印し直す。傑作『TRIO』は、そんなアルバムだ。
『TRIO』と同時にトリビュート・アルバム『高野寛ソングブック』がリリースされる。盟友・浜崎貴司やハナレグミが名を連ねる中、かつて高野をプロデュースしたトッド・ラングレンの英語詞カバー「虹の都へ」が面白い。トッド は堂々たる大人の歌いぶりを披露してくれる。少年性のカケラもない(笑)、高野とまったく違う楽曲へのアプローチが、かえって高野を個性をあぶり出す。高野はJ-ROCK、J-POPのオリジネーターの一人として、今後も至高の作品を発表していくことだろう。
【文:平山雄一】
リリース情報
TRIO
発売日: 2014年08月06日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: SUNBURST
収録曲
1. Dog Year, Good Year
2.(それは)Music
3. 2つの太陽
4. See you again (RIO ver.)
5. 一分間
6. Morning Star
7. 確かな光 (RIO ver.)
8. Mo i Kai
9. いつのまにか晴れ (2014)
10. On & On (& On)
11. 地球は丸い - A Terra e Redonda
12. ないものねだり
13. Free
14. Nectar
15. 美しい星 (RIO ver.)
16. Petala - 花びら
リリース情報
高野寛 ソング・ブック~tribute to HIROSHI TAKANO~
発売日: 2014年08月06日
価格: ¥ 2,800(本体)+税
レーベル: Ultra-Vybe
収録曲
1. 夢の中で会えるでしょう/蓮沼執太フィル
2. hibiki/ハナレグミ
3. やがてふる/高橋幸宏
4. エーテルダンス/ビューティフルハミングバード & 宮内優里
5. 確かな光/畠山美由紀+青柳拓次
6. ベステンダンク/岸田繁(くるり)
7. オレンジ・ジュース・ブルース/anonymass with 湯川潮音
8. KAORI/有里知花 with 宮川 剛・永見行崇
9. 夜の海を走って月を見た/山田稔明(GOMES THE HITMAN)
10. See You Again/アンチモン
11. ベステンダンク/おお雨(おおはた雄一+坂本美雨)
12. All over,Starting over/浜崎貴司
13. 虹の都へ/トッド・ラングレン