レビュー

くるり | 2014.09.24

連載 第38週
くるり『THE PIER』


ニュー アルバムは、音楽のマッド・サイエンティスト岸田繁が発明したサウンド・マシーン

 『THE PIER』は、時代も地域もごちゃまぜの味。どの曲も多様なファクターで構成されていて、まるで“時代も国籍もまたぐ音楽の旅”のよう。未来も太古も、ブラジルも東南アジアも、シタールもシンセもシャッフルされていて、懐かしさと新しさがランダムに心に押し寄せてくる。この楽しさは映画でいえば『ブレードランナー』や『千と千尋の神隠し』、小説で言えば『指輪物語』や『帝都物語』みたい に頭の中を爽快にかき混ぜてくれる。

 ただし、こうした楽しみは映画や小説にはあっても、これまであまり音楽にはなかった。ジャンルや楽器に縛られて、ここまでたくさんのアイテムがミックスされた作品はほとんどなかった。ポップ・ミュージックが冒険心に富んでいた1980年前後でさえ、ユーミンの『時のないホテル』やアラン・パーソンズ・プロジェクトの『イヴの肖像』くらいしか思い浮かばない。21世紀ではカナダのロックバンド、アーケイド・ファイアなどのアプローチと似ているかもしれない。

 もともとくるりは、アルバムごとに音楽性を変化させてきたが、ここまで大胆な転進はなかったように思う。あ、でもテクノに接近した『TEAM ROCK』や、オーケストラをフィーチャーしたウィーン録音の『ワルツを踊れ』にはビックリしたなあ。今回のぶっ飛び具合は、それに匹敵する。しかし、変化の乏しいJ-ROCKシーンの中では、やはりこの転進は飛び抜けて痛快だ。やりたいことを思い切りやってみせるのがバンドの醍醐味だとしたら、くるりは『THE PIER』でまたやってくれたわけだ。

 そして、このアルバムは、ぼんやり聴くといい。この楽器はどこの国のものだとか、このリズムは何年代だとか、トリビア的な興味をひとしきり満足させたら、何も考えずに聴くといい。ぼんやり聴いていると、いつの間にかいつかの時代のどこかに飛ばされてしまう。それがこのアルバムの狙いにいちばん沿っていると思う。 すると、「Amamoyo」の岸田繁のボーカルの裏に寄り添うファンファンの歌声や、「遥かなるリスボン」でチャラン・ポ・ランタンの小春が奏でるアコーディオンが不思議とよく聴こえてきて、エッジーな時空シャッフルの痛みを癒してくれる。

 それにしても、このアルバムのひとつひとつの音の美しさは驚異的だ。ノイズが綺麗に掃除されていて、“音の視界”が非常にクリアに仕上げられている。それはたとえば、画面をわざと粗くして時代感を消した『ブレードランナー』の 対極にある演出だ。『THE PIER』は、映画で言えばCG技術の進化から生まれた『アバター』に近いのかもしれない。

 僕はユニコーンをはじめとする“音楽の遊び”が大好きなのだが、今回、くるりが提示した音楽遊びは未体験の面白さだ。音楽のマッド・サイエンティスト岸田が発明したサウンド・マシーンに乗って、秋の空に飛び立ってみるのもいいだろう。奇妙でリアルな音楽の旅は、未来を想像しにくい今の日常に、きっとピシリとヒビを入れてくれる。

【文:平山雄一】

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リリース情報

THE PIER【初回限定盤】

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THE PIER【初回限定盤】

発売日: 2014年09月17日

価格: ¥ 5,000(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

1. 2034
2. 日本海
3. 浜辺にて
4. ロックンロール・ハネムーン<album edit> 
5. Liberty&Gravity
6. しゃぼんがぼんぼん
7. loveless
8. Remember me
9. 遥かなるリスボン
10.Brose&Butter
11.Amamoyo
12.最後のメリークリスマス<album edit>
13.メェメェ
14.There is(always light)

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