レビュー
Cocco | 2014.10.10
オリジナルアルバムとしては実に約4年ぶりとなるCoccoの最新アルバム『プランC』が届いた。その間にベスト盤のリリースや、ミニアルバム『パ・ド・ブレ』のリリースはあったが、これほど間が開いたのは活動休止のとき以来久しぶりのこと。そんな4年間のCoccoはCDリリースこそ活発ではなかったが、エッセイ集の出版、配信リリース、映画出演、そして舞台と表現活動は断続的に続けてきた。特に、今年になって初主演を務めた舞台『ジルゼの事情』(今年1月に初演、9月に再演)では、天性と呼ぶべき演技力、美しいダンスシーンを披露。そして、物語の終盤で「ドロリーナ・ジルゼ」を、圧倒されるまでの迫力で歌う。ドロリ……という粘液が滴るような擬音とともに、抜け落ちる執念や憎しみ。清々しいロックサウンドを背に晴れやかに伸びるCoccoの歌声。力強いエネルギーがその歌にはあった。そして、この曲が最新アルバム『プランC』には収録されている。
今回のアルバムの一番の特徴は豊かなサウンドアプローチだ。先行配信中のYou Tubeなどを一切見ずに、1曲目「パンダにバナナ」に触れたリスナーはきっと「あのCoccoが!?」と驚かされるだろう。Coccoの歌声がEDM的なビートに乗る。さらに、ホーンセクションを絡めた「たぶんチャチャチャ」、ロックナンバー「ドレミ」、そしてミラーボールが似合いそうな「3D」など、全13曲がいずれも異なる個性を持っている。まるで自身を茶化しているかのように歌った「スティンガーZ」のような曲もあれば、心にグサリと釘を刺すシリアルな曲もある。まるで気分屋のお嬢様みたいに、聴き手を翻弄してくるのだ。
このアルバムについて、無難な書き方をするならば、生きていれば誰しもが抱く心の揺らぎを丁寧にくみ取ったポップアルバム、となる。しかし、そこはCocco。誰よりも生きづらさを抱えながら歌に生きるシンガーだからこそ、その歌には隠しようもない生々しさが滲み出ている。愛されない、届かない、神様なんか信じない、もう何も要らない……ないものづくしの人生で、《もう どうしろっての》(「BEAUTIFUL DAY」)と足掻く。
そこに綺麗ごとは一つもないのに、この作品を聴き終えると、何か禊(みそぎ)を終えたよう爽やかな感覚が残った。
【文:秦理絵】
リリース情報
プランC(初回限定盤B)[CD+DVD]
発売日: 2014年10月08日
価格: ¥ 3,500(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
[CD]
01. パンダにバナナ
02. ドロリーナ・ジルゼ
03. たぶんチャチャチャ
04. バスケット
05. ドレミ
06. BEAUTIFUL DAYS
07. 3D
08. 嘘八百六十九
09. Juliet
10. Snowing
11. スティンガーZ
12. ハミングバードと星の砂
13. コスモロジー
[DVD]
01. パンダにバナナ (MUSIC VIDEO)
02. ドロリーナ・ジルゼ(MUSIC VIDEO)
03. ありとあらゆる力の限り(MUSIC VIDEO)
04. 夢見鳥(Live at 「ビクターロック祭り」2014.2.22)
05. 樹海の糸(Live at 「ビクターロック祭り」2014.2.22)