レビュー
SPYAIR | 2014.11.26
長年の経験から言えば、バンドやアーティストがライブにおいて絶体絶命のピンチに追い込まれたとき、彼らを最後の最後に救うのは、“いい 楽曲”なのである。バンドのピンチとは、ボーカルの声が枯れてしまったり、野外ライブで大雨になったり、初めての武道館だったりする。そのときバンドを助けるのは、激しいパフォーマンスでも、豪華な演出でも、歌や演奏の技術でもなく、ひたすら“いい歌詞とメロディ”なのだ。いい楽曲を中心にしてバンドとオーディエンスがしっかり結び付けば、たいていの危機は乗り越えられる。
その点で言えば、SPYAIRのデビュー以来の快進撃を支えてきたのは、間違いな くUZとMOMIKENのコンビが生み出す優れた楽曲群だった。2011年の初の日比谷野音のときも、DJ ENZEL☆がいた最後のライブとなった初武道館も、4人体制になって初めてのツアーの際も、そのときどきにステージを盛り立てる名曲があった。今回、こうして『BEST』 という形で彼らの代表曲を味わってみて、ますますその感を深めることになった。デビュー以前にSPYAIRの存在をシーンに知らしめた「ジャパニケーション」や、ライブでの超キラーチューン「サムライハート(Some Like It Hot!!)」など、ポップなメロディに熱い思いを詰め込んだ歌をこれだけ揃えたバンドは、ロックバ ンド史上、滅多にいない。文字通りのベストなのである。
中でも僕が大好きなのは、「WENDY~I’t You~」 だ。80年代に、パンクバンドでありながら多様な音楽性でシーンに大きな影響を与えたイギリスのバンド“クラッシュ”を彷彿とさせる、アイデアに富んだアレンジに驚かされる。その上で、ナーバスな仲間を思いやる心に溢れたリリックが、胸にダイレクトに飛び込んで来る。
今回の『BEST』 では、そうした優れた楽曲群の最初と最後に、CD初収録の2曲が配されている。
オープニングの「GLORY」 はYouTube限定公開されていた新曲で、♪なぁ、やめないかい? 失敗ばかり引っ張り出すのは♪というフレーズが、心にしみる。誰でもポジティブとネガティブを往復しながら日々を生きているが、互いに手を差し伸べ 合う友達ならではの気遣いがここにはある。一方で、エンディングの新曲「あの頃、僕らは同じ未来を」は、ピアノをバックに♪出会いも 別れも 無理に忘れようとするんじゃなく♪と歌うバラードだ。
今回、短い休止を余儀なくされたSPYAIRの新曲だから、この2曲を今の状況に当てはめて聴くこともできるだろう。しかし、ここに描かれているのは、誰の人生にも起こり得るドラマなのだ。逆境に対して自暴自棄にならず、自分と相手の今までとこれからを大切に想う気持ちが込められているのがSPYAIRらしい。新曲はきっと、彼らの新たな名曲に育っていくだろう。
今回、絶体絶命のピンチに立たされたSPYAIRを、またしても名曲たちが救おうとしている。それらをSPYAIRは、自分たちのために偽りなく書いてきた。だからSPYAIRの楽曲は、彼ら自身を助けるとともに、活動再開を待ち焦がれていたリスナーたちの日常をも救うのだ。
【文:平山雄一】
リリース情報
BEST(初回生産限定盤A)[CD+DVD]
発売日: 2014年11月26日
価格: ¥ 3,800(本体)+税
レーベル: SMAR
収録曲
1. GLORY(新曲)
2. イマジネーション
3. JUST ONE LIFE
4. 現状ディストラクション
5. 虹
6. サクラミツツキ
7. WENDY ~It’s You~
8. Naked
9. 0 GAME
10.My World
11.BEAUTIFUL DAYS
12. サムライハート(Some Like It Hot!!)
13. ジャパニケーション
14. Last Moment
15. LIAR
16. 完全未発表曲(タイトル未定)
トールサイズデジパック仕様/ボーナスDVD: Music Video集