レビュー
サカナクション | 2015.04.02
サカナクション
ハイレゾは、サカナクションの“原画展”
ピカソやパウル・クレーの「名画」と呼ばれるものを、初めて直に見たときの衝撃を憶えているだろうか。たとえば教科書のように画素の粗い写真で見る名画はともかく、けっこう値段の高い美術書でさえ、本物の名画とはまったく違うと言っていいくらいの差がある。
大きさや色調、もっと細かく言えば油絵具の盛り上がりなど、その差は一目瞭然。確かに人や花や橋など同じ要素で構成されてはいるが、「同じ絵」と言っていいものか迷うほどにその差は激しい。
人の認識能力の中では“視覚”がいちばん鋭いが、“聴覚”もなかなかのものだ。サカナクションが今回配信を開始した“ハイレゾ”と、ケータイやスマホの音源との違いは誰の耳にも明らかで、ある意味、教科書の名画と本物くらい違う。さらにはCDとの違いも、美術書と本物と同じくらいの差で、これも誰にでもわかる。ハイレゾは決して“音マニア”のためのものではないのだ。
ミュージシャンは、自分たちがスタジオで作っている音を、なんとか“一般のリスナー”に聴かせたいとずっと願ってきた。録音作品が発明されて以来、アナログ盤、カセット、CDなど様々なメディアが登場したが、90年代の圧縮音源は音質よりも検索や携帯の便利さを重視したもので、残念ながらアーティストの願いからは遠ざかるものだった。しかしハイレゾは、便利で高音質を実現する。
およそ2年前、サカナクションはドルビー社の協力の元に特別チームを編成して、幕張メッセで“6.1サラウンド”の高音質ライブを実現した。そのこだわりは先輩ミュージシャンたちに勝るとも劣らない情熱から始まっていて、結果、素晴らしい音楽体験をオーディエンスに提供したのだった。
今回、サカナクションが過去の全アルバムをハイレゾ配信を開始したのは、幕張ライブの延長線上にあると言っていい。ドラマーの江島啓一によれば、今回も“ハイレゾ・チーム”を結成して臨んだという。「全アルバムの工程に立ち会いました。基準は“聴感”。数字だけではなく、自分の耳で聴いた音質や音量を大切にしましたね」。電子楽器がどれほど進歩しても、ドラムは生音であり続けるから、江島のこだわりは音楽家にとって根源的なものだ。
このところ“音楽の進化”は、リスナー中心に行なわれてきた。だが、ハイレゾはアーティストとリスナーの中間にあって、誰でも手軽に“スタジオに限りなく近い音”で楽しめるツールになる。
サカナクションの“原画”のダイナミクスと美しさをこの機会に体験してみると、音楽観が変わるかも。その感動は、あなたのすぐそばにある。
【文:平山雄一】
■HD-Music、mora、e-onkyoにて、アルバム全6作品
「GO TO THE FUTURE」「NIGHT FISHING」「シンシロ」
「kikUUiki」「DocumentaLy」「sakanaction」
のハイレゾ音源を配信。
HD-Music
http://hd-music.info/group.cgi/view/427
mora
http://mora.jp/artist/2464/h
e-onkyo
http://www.e-onkyo.com/music/