レビュー

RCサクセション | 2015.06.10

連載 第74週
RCサクセション
『シングル・マン』


『シングル・マン』はRCサクセションとスタッフがガチで闘った名盤だ

 名曲「スローバラード」の入っているRCサクセションのサードアルバム『シングル・マン』(76年発売)のアナログテープが発見され、40年目にしてリマスター版がリリースされた。

 J-ROCKの金字塔と言えるこの名盤だが、発売当初のセールスはまったく振るわず、わずか1年で廃盤の憂き目に会う。当時はまだロックのポジションが音楽シーンでは確立されていなかったことを象徴するような“事件”だった。その後、RCサ クセションの人気に火がついた80年に再発売されたが、この『シングル・マン』はそれ以上に大きな問題をはらんだアルバムだった。

 何が問題かといえば、作ったバンド自身が制作途中で、「これは僕達の作品じゃない」と怒っていたからだ。彼らは、「自分たちの音楽にプロデューサーが勝手に入って来た」と言うのである。

 今では“プロデューサー”という職業は誰でも知っている。アルバムの方向性や音楽性を、バンド(あるいはアーティスト)と一緒に考えて、それを実現していく“外部の人間”がプロデューサーだ。しかしそれは現在の日本の話であって、その職能が決定するまでには、実に様々な試行錯誤があった。

 『シングル・マン』のケースは、まさに試行錯誤だった。バンドが楽曲を作り、基本的なアレンジをしたところまでは今と同じだった。しかし最終的な仕上げの前に、たとえばブラスやストリングスを加えたり、プロデューサーがバンドの意向を超えた“ポップ化”を図ったのだった。そこには同じレコード会社だった井上陽水の制作チームが、当時、浮上のきっかけを探していたRCサクセションに「売れる音作り」を提供しようという意図があった。しかしバンドはガンとして抵抗した。 売れることは、バンドに様々なパワーを与える。それは確かなことだが、だからと言って自分たちの意にそぐわない音楽でブレイクしても嬉しくない。売れることと、バンドが音楽的意志を貫くことは、時には矛盾してしまう。ミュージシャンの永遠のテーマなのだ。プロデューサーも “売れることでバンドの意識が変わること”を信じて手を入れたのだと思うが、『シングル・マン』の場合は、結局両者が対立して大きな“ヒビ”が入ってしまった。

 結果、リスナーに支持されずに廃盤になってしまった。だが、その後、「スローバラード」はJ-ROCKを代表する名曲になる。RCサクセションが時代の先を進み過ぎていたのか、リスナーが遅れていたのか、プロデューサーがバンドを説得しそこなったのか。これは今も起こり得る“問題”なのだ。

 このアルバムに入っている「甲州街道はもう秋なのさ」という曲で清志郎は♪うそばっかり♪というスタッフを責めるフレーズを何度も何度も歌う。スタジオにいたプロデューサーは、たまったものではなかっただろう。しかしそれがリリースされたのは、プロデューサーとバンドのガチの闘いの証拠でもある。こんなレコーディングもあったのだ。

 今年も5月に渋谷公会堂で行なわれた恒例の“忌野清志郎ロックン・ロール・ショー”に、井上陽水が初めて登場した。もちろん陽水と清志郎は仲が良かったが、『シングル・マン』のリマスタリングのタイミングでの出来事としてみると、J-ROCKやJ-POPの歴史を感じて興味深かった。今、プロデューサーとケンカする度胸のあるバンドが、いくつあるだろうか?

 このガチの名盤、聴くべし!

【文:平山雄一】

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リリース情報

シングル・マン +4[SHM-CD]

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シングル・マン +4[SHM-CD]

発売日: 2015年05月02日

価格: ¥ 2,315(本体)+税

レーベル: ユニバーサル ミュージック

収録曲

1 ファンからの贈りもの
2 大きな春子ちゃん
3 やさしさ
4 ぼくはぼくの為に
5 レコーディング・マン(のんびりしたり結論急いだり)
6 夜の散歩をしないかね
7 ヒッピーに捧ぐ
8 うわの空
9 冷たくした訳は
10 甲州街道はもう秋なのさ
11 スローバラード
12 わかってもらえるさ
13 よごれた顔でこんにちは
14 スローバラード(シングル・バージョン)
15 やさしさ(シングル・バージョン)

※オリジナル・マスターからのリマスタリング[SHM-CD仕様]

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