レビュー

松本隆 | 2015.06.24

連載 第76週
松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート『風街であひませう』


松本隆は日本語の新しい歌詞表現を、45年間追求してきたレジェンド

 『風街であひませう』は、松本隆の作詞活動45周年を記念してのトリビュート・アルバムだ。鈴木正人(Little Creatures)のトータル・サウンドプロデュースの元、2015年の“声”としてYUKIや斉藤和義、やくしまるえつこたちがボーカルで参加している。

 松本は、はっぴいえんどで日本語のロックの道を切り拓き、作詞家としては松田聖子や小泉今日子などの80年代アイドルから、「風の谷のナウ シカ」、「星間飛行」などのアニメソングまで幅広く手掛け、数多くのヒットを生んだ。

 70年代に一時代を築いた阿久悠に代わって、80年代に入るとヒットチャートを独占した松本だが、ことはそうした表面的な事実だけでは語れない。

 阿久は“企画力”に長けた作詞家だった。阿久は「この歌手にどんなことを歌わせると最もスリリングなのか」というテーマをいつも掲げて、沢田研二やピンクレディーに歌詞を書いていた。なので阿久の歌詞は言葉が非常に立っていたから、“歌の企画”がよく伝わる一方で、時にはメロディを壊してしまうことがあった。

 それに対して松本は、70年代末から急速に進歩したサウンドによく合った作詞法を取ることで、リスナーの心をつかんでいく。今回のトリビュート・アルバムでC-C-Bの「ないものねだりのI Want You」をカバーした安藤裕子は「私はずっと、潜在的に彼の言葉の響きに共感していたのだから。なんだか気持ちがいいじゃない」と告白している。

 また松本は“企画”というより、感情を風景に滑り込ませる “情景描写”が上手かったことも、80年代のリスナーに適合していたように思う。ラッツ&スターの「Tシャツに口紅」をカバーしたハナレグミは、♪泣かない君が 泣けない俺を見つめる♪というフレーズに一瞬にしてやられたと語る。

 そしてこれらのアーティストの発言は、80年代末に爆発した“カラオケブーム”によって一般リスナーにも実感されることになった。

 現在のJ-POPやJ-ROCKに多大な影響を与えた松本隆の作品の価値は、自分で歌ってみるとよくわかるのかもしれない。なにしろこのアルバムに参加したアーティストたちは、全員気持ちよさそうに歌っているのだから。

 みなさんもカラオケに行って、“私の松本隆トリビュート” をやってみてはいかが? うーん、僕は薬師丸ひろ子の「Woman“Wの悲劇”より」(作曲・呉田軽穂)かなぁ・・・。

【文:平山雄一】

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リリース情報

松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート 「風街であひませう」

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松本隆 作詞活動四十五周年トリビュート 「風街であひませう」

発売日: 2015年06月24日

価格: ¥ 3,000(本体)+税

レーベル: ビクターエンタテインメント

収録曲

1. 手嶌葵/「風の谷のナウシカ」
2. 草野マサムネ(スピッツ)/「水中メガネ」
3. クラムボン/「星間飛行」
4. 斉藤和義/「白いパラソル」
5. やくしまるえつこ/「はいからはくち」
6. YUKI/「卒業」
7. ハナレグミ/「Tシャツに口紅」
8. 中納良恵(EGO-WRAPPIN’)/「探偵物語」
9. 安藤裕子/「ないものねだりのI Want You」
10. 小山田壮平&イエロートレイン/「SWEET MEMORIES」
special track
11. 細野晴臣/「驟雨の街」

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