レビュー
桐嶋ノドカ | 2015.07.13
桐嶋ノドカのデビューミニアルバム『round voice』を、何の気なしに聴いてみた。 「風」の最初の1音が、とてもきれいだった。やがて聴こえてきたノドカの声は、バックのサウンドと同じ種類のきれいさを持っていて、興味を惹かれた。
曲が「キミのいない世界」に進むと、今度はノドカのかすれた声が聴こえてきた。それは「風」のぱーんと張った声より含むものが多く、魅力的だった。
やがて「ボーダーライン(album ver.)」が聴こえてきた。相変わらずバックの音はきれいだった。ノドカの声も相変わらずきれいだったが、前の2曲と比べると、バックの音から少しハミ出していた。
俄然、興味が沸騰した。
聴く限り、バックのサウンドを作っているスタッフは、相当の腕を持っている。ボーカルの力が足りなくて、そこからハズレてしまうことはあっても、ハミ出すにはかなりのボーカル力が必要だ。ノドカはそれを持っている。
資料を見ると、プロデューサーは小林武史で、エンジニアは椎名林檎や東京事変を手掛ける井上うに。相当の腕どころか、現代のグッド・サウンドを作り出すマエストロたちだ。その2人が組んで作った音からハミ出すとは! 制作スタッフでアーティストの器を量るのは危険だが、絶対的に信頼できる場合がある。小林と井上は、まさに信頼に足るクリエイターだ。
さらに「ボーダーライン(album ver.)」を聴き進むと、ノドカは大暴れ。 次々と変わるリズムにたやすく乗っかって、好き放題に声を出す。
そう、歌というより、声なのだ。その声が含むのは、不安や反発や助けを求める心だった。
小林と井上は、そんなノドカを、決まりきった枠に閉じ込めようとはせず、できる限り野放しにしようとしているのが、さすがだ。たぶん2人はこの“才能の暴れん坊”を前にして、ニヤニヤしながら今回のミニアルバムを作っていたに違いない。
粗削りは粗削りのまま、世に出す。それは小林と井上にしかできない業であり、そうさせたのはノドカの声だ。
このアルバムで「ボーダーライン(album ver.)」と並んでススメたいのは、アルバムの最後に収められている「世紀末のこども」だ。♪ あぁ 暇なのに時間がたりないなあ ♪ というフレーズに、僕もニヤニヤしてしまったのだった。
【文:平山雄一】
リリース情報
round voice
発売日: 2015年07月29日
価格: ¥ 1,600(本体)+税
レーベル: A-Sketch
収録曲
1.風
2.キミのいない世界
3.ボーダーライン(album ver.)
4.Wahの歌(album ver.)
5.世紀末のこども