レビュー
サカナクション | 2015.08.06
待ちに待った「グッドバイ(NEXT WORLD REMIX)」が聴けるだけで、もう上りっぱなし。NHKで放送された番組「NEXT WORLD 私たちの未来」は、テクノロジーの進歩と人 間社会の未来を描くスリリングな内容だったが、ここで使われた「グッドバイ」が非常に印象的だったから、僕はずっと音源化を待ち望んでいた。
2014年の“SAKANATRIBE”ツアーの本編ラストで演奏された「グッドバイ」は、サカナクションの未来を見据えようとする苦悩と決意を歌って感動的だった。一方、テレビでは♪不確かな未来へ舵を切る♪という中心になるフレーズが内容とリンクして、番組に深みを与えていた。そこには、堂々とした一篇の“歌モノ”をリミックスすることで、断片が独立した意味を持つという現代音楽のマジックがフルに活用されていた。
おそらく山口一郎はそうした“音楽の変容”を、このコンセプチャルなアルバムで伝えたかったのではないかと思う。この2枚組CDのうち、「グッドバイ」が入っている“月の変容”は、リミックスされることで曲の持つ“もうひとつの顔”があぶり出されてくることの重要性をはっきり伝えてくれる。
一方で、もう1枚の“月の波形”は、これまでリリースした10枚のシングルのカップリング曲がまとめられている。バンドによってカップリングに持たせる意味合いは異なるが、サカナクションには明確なテーマがある。シングル・タイトル曲には、タイアップも含めて戦略的な意味を持たせ、カップリングではその時点でのバンドの表現欲を最優先させる。実はこの二つが合わさって、サカナクションのシングルは完結する。
たとえば ライブでオーディエンスをぐいぐい引っ張る名曲「ホーリーダンス」は、「アイデンティティ」のカップリングであり、そのパワーはタイトル曲に勝るとも劣らない。どちらが主役かという問いは、この時点で無意味になる。言い換えれば、タイトル曲は“社会性”であり、カップリングは“個性”なのだ。この二つを同時に出すことで、サカナクションはアルバムとは違う時代性を切り取ってきた。
そして、『懐かしい月は新しい月』というタイトルが興味深い。懐かしい曲は、リミックスされることで新しい意味を持ち、懐かしいカップリングはまとめられることでサカナクションの“もう一つの新しい歴史”になる。そしてこのサカナクションの最新作品を聴いていると、『新しい月は懐かしい月』と読み替えたくなるのが小気味いい。
【文:平山雄一】
リリース情報
懐かしい月は新しい月 ~Coupling & Remix works~(初回限定盤)[2CD+Blu-ray]
発売日: 2015年08月05日
価格: ¥ 4,100(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
[CD1]
「月の波形 ~Coupling & Unreleased works~」
01 ホーリーダンス
02 Ame(A)
03 multiple exposure
04 years
05 映画(コンテ 2012/11/16 17:24)
06 スローモーション
07 もどかしい日々
08 スプーンと汗
09 ネプトゥーヌス
10 montage
11 ナイトフィッシングイズグッド (Iw_Remix)
12 ミュージック (Ej_Remix)
13 アイデンティティ (Ks_Remix)
14 GO TO THE FUTURE (2006 ver.)
[CD2]
「月の変容 ~Remix works~」
01 グッドバイ (NEXT WORLD REMIX)
02 Ame (B) ?SAKANATRIBE x ATM version-
03 ルーキー Takkyu Ishino Remix
04 三日月サンセット (FPM EVERLUST MIX)
05 ライトダンス YSST Remix 2015 (Remixed by Yoshinori Sunahara)
06 映画 (AOKI takamasa Remix)
07 サンプル (cosmic version)
08 さよならはエモーション (Qrion Remix)
09 YES NO (AOKI takamasa Remix)
10 夜の踊り子 (agraph Remix)
11 ミュージック (Cornelius Remix)
12 ネイティブダンサー (rei harakami へっぽこre-arrange)
[BD/DVD]
「月の景色 ~Documentary of "GO TO THE FUTURE (2006 ver.)” & MUSIC VIDEOS~」
・Documentary of "GO TO THE FUTURE (2006 ver.)”
EXTRA
・"GO TO THE FUTURE (2006 ver.)” binaural recording
・「years」 MUSIC VIDEO
・「スローモーション」 MUSIC VIDEO
・「ホーリーダンス」 MUSIC VIDEO
・「ユリイカ(minimal demo)」 MUSIC VIDEO