レビュー
ドレスコーズ | 2015.10.26
ドレスコーズ『オーディション』
ドレスコーズのオーディションを見逃すな! “天才”は忘れたころにやってくる
ドレスコーズの名はそのままに、ソロに転じた志磨遼平は、名曲量産マシーンと化した。前作『1』から1年足らず。ニューアルバム『オーディション』で、志磨の創作意欲とアイデアの噴出速度はさらに上がって、名曲だらけの見事な音楽風景を描き出している。
1曲目の「嵐の季節(はじめに)」は、日常にくさくさしているリスナーに、やさしく♪おはいり この嵐は まだ やまないから♪と語りかけ、ドレスコーズの世界へ手招きする。自然な呼びかけが、そのままアルバムの入口になっている。また、この歌の最後には“他愛ない 対話に”や“波だって 凪いだ”という切ないライムが潜んでいる。アルバムのオープニングにふさわしい、典型的な名曲だ。
志磨は、美メロが好きだ。彼はそのメロディに軽やかな言葉を載せる。徹してロマンティックな言葉もあれば、斜に構えたチンピラ言葉、はたまた正統派の人生訓もあれば、皮肉やキャッチコピーのような言葉もある。そしてメロディと言葉が合わさったものを志磨が歌うとき、それは最初から一緒に生まれてきたもののように聴こえてくる。よくソングライターが「いちばん幸せなのは、メロディと歌詞が一緒に出てくるとき」と語るが、志磨の作品はどれもその“幸せな状態”に在るように思える。
ただ、ドレスコーズはアレンジが一筋縄ではいかない。その幸せに割って入るアレンジが、ドレスコーズの真髄と言っていい。
「We Hate The Sun」では、ユーミンばりの美しいメロディに、♪最低・最後の やり方がある♪というヤクザな歌詞を絡ませる。さらに都会的なコードを、KING BROTHERSのギタリストのマーヤに歪んだ音色で弾かせる。そればかりか、凛として時雨のピエール中野にドラム・ソロを取らせる。
軽快なリズムに乗せてスマホの画面や“NAVERまとめ”をイジる「jiji」では、ねごとの沙田瑞紀に超エッジーなギター・ソロを炸裂させるなど、大胆不敵なアレンジがアルバムの各所に埋め込まれている。
だからこれらは“ただの名曲”ではなく、“ドレスコーズの名曲”になる。
中で、アルバムタイトル曲「オーディション」は、まるでデモテープのような作品だ。バックはシンプルで、歌詞はラララだけ。その有様は、歌詞を載せてもらうためにオーディションを受けるメロディ、あるいはアレンジしてもらうためにオーディションを受けるバックサウンドと言えるのかもしれない。
そうして、その向こう側には、リスナーのオーディションを受けようとする志磨自身がいる。制作スタイルと活動形態を千変万化させる自分を、フェアに世に問おうとしている。
アルバム最後の曲「おわりに」の、♪人生の半分は「発見」で のこり半分でそれを忘れて♪というフレーズは、必ず新しいことをやりながら、それを忘れることで次に進めるという志磨のアーティスト本能の叫びがある。“天才”は忘れたころにやってくるのだ。
【文:平山雄一】