レビュー
水曜日のカンパネラ | 2015.11.10
コムアイのCM出演などにより、ますます注目が高まっている中、リリースされる最新作『ジパング』。今作は全曲をメンバーのケンモチヒデフミが手掛けている。テクノ、ハウス、ヒップホップなどを下地にした水曜日のカンパネラの楽曲は、端的に言うならば「高性能極まりないダンスミュージック」ということになるのだろう。では、その「高性能」を実現している要素とは何なのか? ハイクオリティなトラックによるのは勿論だが、歌詞が果たしている役割も非常に大きいのだと、今作を聴いて改めて思った。
フィクション、ノンフィクションの有名人を大胆に主軸に据え、言葉を連続放射するお馴染みのスタイルのリリックは、紛れもなく猛烈に面白い。しかし、面白いだけではない。論理的思考を勢いよく吹っ飛ばす魔力も秘めている。例えば今作に収録されている曲の1つ「ラー」は、ザックリ説明するならば「太陽神ラーがテーマ」ということになるのだろうが、ラーの神秘的な力、眩しい光に満ちた存在感は、カレーライスの美味しさとリンクしていく。また、「猪八戒」は、『西遊記』のあの妖怪や仲間達を紹介しつつも、金華ハムや肉まんなどにもスポットを当てる。「小野妹子」もとんでもない。遣隋使を描いてはいるのだが、文通が生んだ悲劇の物語でもあり、新宿2丁目へのダイナミックなワープも遂げてしまう。
誰もが知っているキャラクターにまつわる事実をしっかり盛り込みつつも、予想外の物体や事象と結びつきながら展開するリリックの数々。これらは「何となく関連があるような気もする」という錯覚を誘うところが恐ろしい。例えば先ほど挙げた3曲で言うならば、太陽神ラーが醸し出す黄金色のイメージは、カレーのルーの色彩や輝きと無縁ではないような気もするし、猪八戒から美味しい中華料理を連想したことはないとは言えないし、小野妹子が男性であるという事実を知って仄かなショックを受けた体験は身に覚えがある……というラインを不敵に衝いてくる。つまり、「実」に対してあからさまな「虚」をぶつけるのではなく、「実」に対して何だか関係がありそうな雰囲気も帯びた「虚」をぶつける仕組み=言葉に触れるとどうしても論理的に意味を追ってしまう性質から逃れられない生物である人間を巧みにナンセンスの世界へと引きずりこむ手法に裏打ちされているのが、水曜日のカンパネラのリリックなのだと思う。
論理的思考が敗れ去った後、生まれるのは一種の酩酊感だ。そんなフワフワした状態で極上のサウンドを浴びると、踊る楽しさ、心地よさは果てしなく広がる。溢れまくるこの圧倒的な快感、愛すべきオリジナリティを体験しない手はないだろう。何となく気になっていた人は、ぜひ『ジパング』のリリースを切っ掛けに、水曜日のカンパネラの世界へ飛び込んで欲しい。
【文:田中 大】