レビュー
The Cheserasera | 2015.11.26
“なるようになるさ”を意味するThe Cheseraseraというバンド名は本当にこのバンドらしいと思う。どうしても逃げ出したくなる現実に直面したとき、それでも“なるようになるさ”と言ってしまおうという覚悟。今回、The Cheseraseraがリリースしたミニアルバム『YES』は、そんなバンドの意志を改めて強く感じるものだった。日常にノーではなくイエスを。肯定のメッセージは1曲目「賛美歌」からもはっきりと伝わってくる。瑞々しいメロディにのせて、《ほら 金も 花も 意味がない》と、目の前に小さな幸せが転がっている“いま”こそを大事にしたいというナンバー。そんな宍戸翼(Vo・G)が描く歌詞には、20代も半ばを過ぎた男性の等身大が詰まっていて、そこに滲ませたユニークな筆致も面白い。《目のクマがブルドッグみたいになっても 笑わないで》と、老いてゆく自分の姿を想像しながら、いまと真摯に向き合う「Youth」は、いつも生真面目に想い悩む宍戸らしい表現だ。
その「Youth」のように、歳を重ねること。そこにひとつ焦点が当たっているのも今作の特徴かもしれない。ややセンチメンタルなトーンで、《大人の階段なんて 死んでも縁の無いものと思ってた》と歌う「somewhere」は、心の“どこか=somewhere”にある懐かしい思い出を探すために旅に出る。続く「Escape Summer」もまた、《これから死ぬまで一人前の まともな大人の人として歩いてゆく》と歌い出す。あの遠い夏へと思い馳せるノスタルジックなコーラスにのせて、戻れない過去とは、自ずと未来へとつながっていくものだということを確かめるように楽曲が綴られていた。
今年1月にバンド史上最高傑作とも言える1stフルアルバム『WHATEVER WILL BE, WILL BE』をリリースした後ということもあってか、今回の『YES』は肩肘を張らないシンプルなサウンドにまとめた印象もある。だが、その7曲はこれまでにない優しさと包容力、何よりも濃密で豊潤な音の広がりに満ちていた。邪推かもしれないが、そこにはメンバーの体調不良のためキャンセルが相次ぎ、満身創痍のなかで駆け抜けた前回ツアー「WHATEVER WILL BE, WILL BE TOUR」の影響も少なからずあったのかもしれない。困難を乗り越えて人は優しくなる。たゆたうように流れるダイナミックな演奏にのせて、遠く離れた場所からも《君の無事を願っている》と歌う「インスタントテレビマン」。そして、圧巻のラストナンバーは雄々しいドラムの躍動感のなかで現実を直視して歌う「灰色の虹」だ。急き立てられるような語り口調を織り交ぜながら、《未来は何も語らない 微笑んでもくれない》と歌い、それでも向かうべき場所へと奮い立たせてくれる1曲。それは『YES』という名を持つ輝きに満ちた今作に相応しい締めくくりだと思う。何も語らない未来はいつだって“YES”の先にあるのだ。
【文:秦理絵】