大ヒット曲「ひまわりの約束」が収録されている豪華なアルバムだが、核心は６曲目の最新シングル「Q & A」の前後３曲にある。

　５曲目「美しい穢れ(けがれ)」は秦自身によるアコースティック・ギター１本の弾き語りアレンジ。繊細なタッチのアルペジオに包まれて歌われるのは、悲しいラブストーリーだ。思いを寄せる人が穢されていくのを、黙ってそばで見ているしかない男の気持ちが赤裸々に描かれる。男の苦しみが、♪君よ　いっそ　消えてしまえ♪という言葉になってあふれ出る。その一方で、男は彼女に出会えたことに感謝もする。この矛盾した気持ちを、秦は丁寧に描く。

　これまでも秦は、優れたラブソングを多く書いてきた。しかし「美しい穢れ」は、前以上に恋人たちの心理に踏み込んでいる。片想いや嫉妬や憎悪を描くことは、ハッピーな恋物語より数倍難しい。それはリアリティを極限まで突き詰めないと説得力が生まれないからだ。ただし、憎悪や嫉妬に正面から向き合うには相当な忍耐力が必要で、誰もが好んで扱うテーマではない。そして、それに挑んだ秦は、独自の領域に踏み込んだ。この歌の最後の１行、♪僕よ　いっそ　消えてしまえ♪ というフレーズは、秦が勇気を持って踏み込んだからこそ得られた。

　この言葉で「美しい穢れ」が終わった後、「Q & A」の♪憎しみも裏を返せばつ まり同じだ　愛だ♪というフレーズが一層深く突き刺さる。７曲目の「ディープブルー」はそうした気持ちを、正面から受けとめる。この歌がアルバム・タイトルにつながっていく。

　恐ろしいほど的確な曲順に、僕は唖然とした。間違いなく、ラブソングライター秦 基博の最高傑作アルバムだ。

【文：平山雄一】