レビュー
スピッツ | 2015.12.16
「JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~」
「JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~」は、スピッツに救われた魂たちのベストプレイ集だ
全曲トリ肌の立つトリビュート・アルバムなんて、初めてだ。
20年前にリリースされたスピッツの超名作『ハチミツ』を、アルバムまるごと曲順どおりにさまざまなロックバンドがカバーする。その企画も凄いが、内容はその100倍凄いことになっている。
特に、どの曲もボーカルが素晴らしい。それぞれのバンドのボーカルは、自分の持ち味を活かしながら、気持ちのこもった歌を聴かせてくれる。その要因は、ひとつには草野マサムネの詞の深さもあるが、いちばんはボーカリストたちが非常に素直にスピッツ・ナンバーを歌っているからだ。ゴールデンボンバーの鬼龍院翔の「ルナルナ」はその代表だろう。また、シニカルなアプローチをすることの多いindigo la Endの川谷絵音の「愛のことば」での“素直な歌”がグッとくる。それは彼らが少年時代にスピッツに触れて影響を受けたことから来るのかもしれない。ボーカリストたちは、初めてスピッツに感動した頃の自分に戻って歌っているかのような気配がある。
その一方でバンドの演奏とアレンジは、スピッツのラディカルな音楽性をよく捉えている。
1991年にデビューしたスピッツは、アルバム『ハチミツ』でブレイクするまでに4年を要した。それはスピッツの個性的な音楽を、どう日本のリスナーたちに届けたらいいのかを探るトライ&エラーの月日だった。スピッツが本来持っているパンク・スピリットとオルタナティヴな音楽性を、ポップに聴かせるにはどうしたらいいのかと悩み迷う困難な作業の日々だった。
今回、このトリビュートに参加しているバンドのラインナップを見て、「どうして筋金入りのロックバンドばかりなの?」と首をかしげる人がいるかと思う。表面的には優しくて柔らかなスピッツの音楽からすれば、確かに女性のポップシンガーがいてもおかしくはない。しかし、スピッツがパンク&オルタナとポップの折り合いをつけてブレイクした記念すべきアルバムだからこそ、ポップフィールドではなく、ロックバンドにすべてが託された。
そしてどのバンドも思い切りエッジーなアレンジでカバーしている。9mm Parabellum Bulletの「ロビンソン」は、トンガリまくりのアレンジで、もしやスピッツの当時のデモテープはこうなっていたのではと思わされた。
そうした尖ったバンド・アレンジに乗って、ボーカルは前述のとおり、心をこめて素直に歌うのである。スピッツの本質をついたそのギャップが、聴く者にトリ肌を立たさせるのだ。
このアルバムに参加したバンドは、ユニークな個性を持ったバンドばかり。だからスピッツと同じように、「自分たちの音楽をどうポップに昇華するのか」に心を砕いている。おそらく彼らは、その答のひとつをスピッツに見た。だからこのアルバムは、スピッツに救われた魂たちのベストプレイ集なのだ。
ジャケットも20年の時を越えて、オリジナル・ジャケットと同じ構図のアブストラクトになっている。このアルバムを作ったスタッフたちのスピッツへの愛情とアートセンスを感じて、またトリ肌が立った。
【文:平山雄一】
リリース情報
JUST LIKE HONEY ~『ハチミツ』20th Anniversary Tribute~
発売日: 2015年12月23日
価格: ¥ 3,000(本体)+税
レーベル: ユニバーサル ミュージック
収録曲
1.「ハチミツ」 赤い公園
2.「涙がキラリ☆」 10-FEET
3.「歩き出せ、クローバー」 NICO Touches the Walls
4.「ルナルナ」 鬼龍院翔(ゴールデンボンバー)
5.「愛のことば」 indigo la End
6.「トンガリ’95」 LAMP IN TERREN
7.「あじさい通り」 クリープハイプ
8.「ロビンソン」 9mm Parabellum Bullet
9.「Y」 GOOD ON THE REEL
10.「グラスホッパー」 ASIAN KUNG-FU GENERATION
11.「君と暮らせたら」 初恋の嵐 feat. 曽我部恵一
Bonus Track「俺のすべて」 SCOTT MURPHY