レビュー
ゲスの極み乙女。 | 2016.01.12
いまや紅白への初出演も果たし、国民的バンドへと成長したゲスの極み乙女。
そのはじまりは、川谷絵音(Vo・G)がindigo la Endとは別のバンドとして「遊びのつもりでスタジオに入ったことがきっかけ」という有名なエピソードがある。そんなバンドのスタートを象徴するように、初期のゲスの極み乙女。の楽曲は、当時のindigo la Endとはあえて違う音楽性を模索していたようにも見えたし、“ゲス”をキーワードにした企画っぽさや遊びの要素を多く持つナンバーも目立った。だが、いま1年2ヵ月ぶりにリリースされたニューアルバム『両成敗』は、もはやゲスの極み乙女。がそういう次元で終わるバンドではないことを強く感じさせる作品だ。もっと普遍的な価値観のうえで、ゲスの極み乙女。にしか鳴らすことのできないポップミュージックとは何か、そこに向き合って出た答えがこの『両成敗』だと思う。
今作は、昨年リリースされた3枚のシングル曲「私以外私じゃないよ」「ロマンスがありあまる」などをはじめ、既出の6曲をのぞいても新曲11曲を収録。全17曲というボリュームで完成した。そのなかには、シングル曲やリード曲「両成敗でいいじゃない」にも代表されるような、4人の高い演奏技術と中毒性の高いサビが印象的な、彼らの真骨頂とも言えるナンバーも多く収録されているが、それだけでは語り尽せない魅力が溢れている。
アコースティックな演奏に冬の日のやるせなさを描いた「id 1」、切ないメロディラインに別れの心情を丁寧に綴った「心歌舞く」は、“速い、踊れる、キャッチー”というゲスの極み乙女。のイメージとは一味違う新鮮な感動を覚えるナンバー。さらに美しいピアノとストリングスのフレーズにのせたポエトリーリーディング「無垢」から、儚い夏の終わりを歌う「無垢な季節」への物語的な流れは、むしろindigo la Endで川谷がよく使う表現。それが違和感なくゲスの極み乙女。の世界観とも溶け合っていた。そこに、悩めるサラリーマンの現実をテーマにしたキラーチューン「勤めるリアル」や、メンバー自身が歌詞に登場する「Mr.ゲス X」といったかっこいいロックナンバーも収録。川谷の言葉選びのセンスが光る、遊び心溢れるユニークなナンバーは、きっとライブでもおおいに盛り上がるだろう。
今作には、ひとりのソングライターがふたつのバンドを操縦しながら、両者の間でバランスをとるような思惑はもはや存在しない。その内にある才能を全開放して描き出した17曲は、ゲスの極み乙女。史上最高に自由なポップアルバムになった。聴けば聴くほどに新しい発見があり、好きなポイントが増えていく魅惑のアルバム『両成敗』。今作を聴くと、これまでの快進撃ですらこのバンドにとっては序章に過ぎなかったと思えてしまう。
【文:秦理絵】
リリース情報
両成敗(初回生産限定盤)[CD+DVD]
発売日: 2016年01月13日
価格: ¥ 3,500(本体)+税
レーベル: ワーナーミュージック・ジャパン
収録曲
[CD]
01、両成敗でいいじゃない
02、続けざまの両成敗
03、ロマンスがありあまる
04、シリアルシンガー
05、勤めるリアル
06、サイデンティティ
07、オトナチック
08、id 1
09、心歌舞く
10、セルマ
11、無垢
12、無垢な季節
13、パラレルスペック(funky ver.)
14、いけないダンス
15、私以外私じゃないの
16、Mr.ゲスX
17、煙る
[DVD]
01、オープニング~「無垢な季節」 ゲスチック乙女~アリーナ編~ @横浜アリーナ 2015.10.14
02、「ロマンスがありあまる」 ゲスチック乙女~アリーナ編~ @横浜アリーナ 2015.10.14
03、「オトナチック」 ゲスチック乙女~アリーナ編~ @横浜アリーナ 2015.10.14
04、「momoe」 ゲスチック乙女~アリーナ編~ @横浜アリーナ 2015.10.14
05、「だけど僕は」 ゲスチック乙女~アリーナ編~ @横浜アリーナ 2015.10.14
06、「両成敗」 レコーディング Off Shot Movie
07、両成敗ゲスツアー