レビュー
岡村靖幸 | 2016.01.28
岡村靖幸『幸福』
11年半ぶりのアルバムは、寸止めの純情で塗りつぶされている
う~っ、1曲目からやられた。トラックというには、あまりにも生々しいサウンドは、ホットかつクール。冷たいドライアイスに直に触れてしまった “低温火傷(ヤケド)”み たいだ。しかもタイトルが「できるだけ純情でいたい」って、ヤバ過ぎる。
普通、アルバムの1曲目は、明るく派手派手に決めるもの。しかし岡村靖幸は『幸福』で、熱気を内に秘めて寸止めのスリルがずっと持続するハラハラどきどきのオープニングを選択。それが大当たりして、アルバム全体を高いテンションで導いていく。このギリギリの感じ、princeの初期の傑作『Controversy』に似てる。
「できるだけ純情でいたい」は、サウンドばかりでなく、歌詞の面でもアルバムをリードする。♪負けてるが めげなくデートしたい♪というフレーズは、駆け引きなしの純情にあふれていて、今の岡村の自信がハミ出している。また、このアルバムで聴ける岡村の声が、最近のライブと同じく太くてタフなのも頼もしい。
アルバムはその後、「新時代思想」などの寸止めソングの間に、「ラブメッセージ」や「愛はおしゃれじゃない」などのポップなシングル曲を置いて変化を付けながら進んでいく。さらにはR指定になってもおかしくない過激な「ヘアー」で、強烈なアクセントを加える。
全体のトーンは、快感の爆発寸前のテンションで貫かれている。間もなく訪れる快感への期待に震えながら、少しずつ登りつめていく状態。もしかすると岡村は、「寸前がいちばん幸福」と言いたいのかもしれない。それにしたって、♪いくら便利なれど 文明はリスキーなもの だから電車飛びおり 会いにいこう♪(「ビバナミダ」)や♪恋は瞬発筋で スマイルしちゃうんだぜBaby♪(「彼氏になって優しくなって」)なんて素敵なフレーズの連発には、膝がガクガクしちゃう。
会田誠のアートワークもエネルギッシュでハッピーで、最高に幸せなアルバムだぜっ!
【文:平山雄一】