レビュー

大橋トリオ | 2016.02.10

連載 第108週
大橋トリオ『10(TEN)』


J-ROCKの文脈から離脱した“大橋トリオのロック”が、さらにバージョンアップ

 3年前の『plugged』以来の“大橋トリオのロックアルバム”だ。わざわざ“大橋トリオのロックアルバム”と書いたのは、彼のロックがJ-ROCKの文脈にはないからだ。

 いわゆるJ-ROCKでは滅多に登場しない高度なコードワークを的確に使いこなし、洗練されたメロディやハーモニーを生み出す。だからといって、仕上げに小難しさはない。その秘密は、リズムのカッコよさにある。シンプルなパターンでも、ピタッと決まる複雑なアンサンブルでも、その中心にはよくスウィングするグルーヴが据えられている。それが“大橋のロック”なのだ。

 大橋はデビュー時に、生楽器の音色の美しさをアピールすることで人気を得た。そうした“unplugged”から少し離れたところで、『plugged』というアルバムが生まれた。そして、めちゃ切れの良いエレキギターのリフで始まる名曲「マチルダ」でその年の夏フェスを席巻した。今回の『10』は、ギ ターだけでなく、エレピなどのキーボードも大活躍して大橋流ロックの幅を広げている。

 その代表は斉藤和義をフィーチャーしたオープニングの「恋するライダー」だ。スネアドラムに続いて、大橋のボーカルと同時に「マチルダ」にも勝るとも劣らないシャープなエレピのリフが入ってくる。このリフが曲のグルーヴを決定付けている。間髪入れずに斉藤のボーカルが聴こえてくる。大橋も斉藤もスモーキーな声が魅力で、相性はピッタリだ。二人はユニゾンになったり、ハモったり。やがてビーチボーイズ風なバックコーラスが絡んでくる。エンディングはブルージーなオルガンが締める。うひゃあ、カッコいい!

 と、喜んでいると、2曲目はチョッパーベースがダンスグルーヴを演出する、80年代初期を思わせるディスコチューンだ。この時代のすべてのロック・ギタリストに影響を与えたナイル・ロジャースを彷彿とさせる、リズムの切れが素晴らしい。ナイルはデビッド・ボウイやマドンナのプロデュースでも有名で、これを今の時代のロックとしてとらえた大橋のセンスはやはりJ-ROCKから完全にはみ出している。

 その他、オルガンを前面に押し出した「赤いフィグ」など、今のシーンでオンリーワンといえる大橋の個性が発揮されたアルバムになっている。きっと今年の大橋のライブは、このアルバムを掲げてアッ パーなものになるに違いない。

 J-ROCKをいつも聴いているリスナーは、アプローチのまったく異なる大橋のロックが新鮮に響くだろう。いつもロックを敬遠しているリスナーには、このアルバムで新しい扉を開いてみることをおススメしたい。

【文:平山雄一】

リリース情報

10(TEN)[CD+DVD]

10(TEN)[CD+DVD]

発売日: 2016年02月03日

価格: ¥ 4,200(本体)+税

レーベル: rhythm zone

収録曲

[CD]
1. 恋するライダー feat.斉藤和義
2. GOLD FUNK
3. 愛で君はきれいになる
4. はじまりの唄
5. 君は悪魔か少女になって
6. アンジュリア
7. 赤いフィグ
8. Wonderland
9. そして君と星になって
10. so pretty

[DVD]
・愛で君はきれいになる(MUSIC VIDEO)
・ohashiTrio TOUR 2015 ~PARODY~ at NHK ホール
1. Cherry Pie
2. PARODY
3. サーカス小屋
4. eito
5. 灰色の世界
6. game over
7. くるみ
8. 君のいない冬
9. アネモネが鳴いた
10. 美しいもの
11. ゼロ
12. Fairy
13. めくるめく僕らの出会い
14. FLY
15. サリー
16. モンスター
17. マチルダ
18. 僕らのこの声が君に届くかい
19. 生まれた日

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