レビュー
ヒトリエ | 2016.02.24
ヒトリエ『DEEPER』
ヒトリエは、『DEEPER』=さらに深くリスナーの心に入り込んでいく
恐るべきセカンド・アルバムだ。昨年7月のミニアルバム『モノクロノ・エントランス』で大きなジャンプを予感させ、アルバム先行シングル「シャッタードール」では早くも“初期の完成形”を思わせた。しかし、それは幻想に過ぎず、ニューアルバム『DEEPER』はさらにその先を行く完成度で迫ってくる。
シングル「シャッタードール」には、メイン曲に行く前に「finder」というインストが付いていたのだが、『DEEPER』ではそれが「GO BACK TO VENUSFORT」という歌入りの曲に変身。ギリギリまで詰め込んだリリックが、スリリングなアルバム・オープニン グになっているのには驚かされた。その効果は抜群で、時間も空間も圧縮されたような状態に置かれた耳の中で、次の「シャッタードール」が “解凍”していく快感が倍増する。
実はこの冒頭の2曲が、『DEEPER』でのヒトリエの進化を象徴している。速いテンポで展開するスリルがヒトリエの最初の武器だとすると、彼らが「シャッタードール」で会得したのは少しだけテンポダウンした際のメロディの魅力だった。そうして『DEEPER』は、その“緩急”の魅力がぐいぐい前面に押し出されている。
「トーキーダンス」、「輪郭」とプッシュの効いたビートの曲が続いた後、ピアノのノーブルなリフで始まる「フユノ」に僕は思い切りやられてしまった。“切ない”という感情をテーマにしたこの曲は、まさしくそれを音楽で描き切っている。まず届きそうで届かない揺れる言葉を、wowakaはソフトな声で伝える。ゆーまおの繊細なリムショット(注:スネアドラムの縁の金属部分を叩く)と、イガラシの厳選された音数のベースが、“切なさ”を表わす。とどめはシノダのメロディアスなギター・ソロ。シャープなアプローチで鋭い“痛み”を伝える。自分たちの音楽的テクニックのすべてを使って、 ひとつの感情を表現しようとするバンドの集中力は見事というしかない。
ラストの「MIRROR」は、僕にはメンバー間のことを歌っているように聴こえた。♪僕らは鏡だ♪と始まって、互いに映し合うことで自分の知らない自分に出会ったり、それまでの自分を忘れていったりする不思議な歌だ。きっと「MIRROR」は間もなくスタートするツアーで、メンバー間の歌から、バンドとオーディエンスたちの歌に成長していくのだろう。ダイナミックなライブにな る予感がする。
このアルバムでヒトリエは、『DEEPER』=さらに深くリスナーの心に入り込んで いくことだろう。
【文:平山雄一】
リリース情報
DEEPER(初回生産限定盤)[CD+DVD]
発売日: 2016年02月24日
価格: ¥ 3,400(本体)+税
レーベル: 非日常レコーズ
収録曲
[CD]
1. GO BACKT TO VENUSFORT
2. シャッタードール
3. ワンミーツハー
4. Swipe, Shrink
5.トーキーダンス
6. 輪郭 7. フユノ
8. バスタブと夢遊
9. 後天症のバックビート
10. MIRROR
[DVD]
Music Video+特典映像
1. トーキーダンス 2. シャッタードール 3. カラノワレモノ[ReREC] 4. ワンミーツハー 5. フユノ
特典映像:”DEEPER”全曲解説+omake