レビュー

AL | 2016.04.13

連載 第117週
AL『心の中の色紙』


『心の中の色紙』は“誰かにとっての名曲”揃い。自分だけの名曲を探せ!

 待ちに待った “AL” の1stフルアルバムには、ずっとヒリヒリさせられっぱなしだ。

 小山田壮平と長澤知之という傑出したシンガーソングライター&ギタリストが、藤原寛(ベース)、後藤大樹(ドラムス)と ジョイントして誕生したバンド“AL”のサウンドのたたずまいには、他のバンドとは決定的に異なるテイストがある。対等なポジションにいる4人が繰り広げるハイテンションなやり取りが、そのまま音楽を形作っていく。バックバンドvsボーカルという構図は、ALにはまったく成り立たない。メンバー4人の声や音が、それぞれに叫びながら、一つの音楽を奏でている。

 オープニングの「北極大陸」は、アコースティック・ギター をかき鳴らす2ビートナンバーで、耳からハミ出しそうなパワフルなグルーブがある。一方で歌詞は、いきなり首にロープを巻きつける自殺願望を描く。ダークな歌詞とグルーヴィーなサウンドが同居した結果、この曲からは、悲しみより、明るい笑いのニュアンスがにじみ出す。嬉し過ぎて泣いたり、悲し過ぎて笑ったり、この相反性がALのヒリヒリの原動力だ。ド派手なロックンロールの「HAPPY BIRTHDAY」あり、フォーキーな「15の夏」あり。バリエーションがありながら、どれも4人の音になっている。

 結果、『心の中の色紙』は名曲揃いのアルバムになった。ただし、それらはみんなを喜ばせる名曲ではない。どの曲にも、聴かせたい対象がはっきりある。正確に言えば、“誰かにとっての名曲”が揃っている。だからリスナーは、自分にとっての名曲を探せばいい。

 その意味で言えば、僕のために書いてくれたんじゃないかと思った名曲 は、12曲目の「さよならジージョ」だった。

 もう一度会いたいと思える人に、もう二度と会えないと直感する。その直感の鋭さと哀しさ、ノスタルジアとセンチメンタリズムが、独特のタッチで交錯する。音楽的にも人間的にも経験を積んだ者でなければ描き切れない感情がそこにある。

 同時に、そうした歌に共鳴しながら奏でられるギターもベースもドラムスもハーモニカも、すべてにプレイヤー自身の感情がこもっていて素晴らしい。つまりメンバーも、何より自分のために演奏し、だからこそ特定の“誰かにとっての名曲”になっているのだ。

 僕は『心の中の色紙』を聴きながら、ボビー・チャールズやバーズなどの60~70年代のアメリカのバンドやシンガーソングライターのアルバム群を思い出していた。同時にペイル・ファウンテンズやベル・アンド・セバスチャンなどの90年代のネオアコ・ムーヴメントも思い出していた。

 乱暴で、臆病で、アーシーで、サイコなALの『心の中の色紙』は、真の意味で“個人的なアルバム”だと思う。だからこそ、この病んだ時代の精神の健康のバロメーターのように作用するに違いない。

【文:平山雄一】

リリース情報

心の中の色紙

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心の中の色紙

発売日: 2016年04月13日

価格: ¥ 2,500(本体)+税

レーベル: Revival Records

収録曲

1.北極大陸
2.HAPPY BIRTHDAY
3.シャッター
4.メアリージェーン
5.風のない明日
6.15の夏
7.あのウミネコ
8.ハートの破り方
9.心の中の色紙
10.ランタナ
11.Mt.ABURA BLUES
12.さよならジージョ
13.花束

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