レビュー
阿部真央 | 2016.05.18
阿部真央
「Don’t let me down」
「Don’t let me down」には“闘うリアルな阿部真央”がいる
本格的な再始動の第1弾シングル「Don’t let me down」は、非常にアグレッシヴなラブソングだ。ラブソング といってもスウィートなそれではなく、今の阿部が“愛について”思うことを激しい思いをこめて書き付けたロックナンバーだ。
タイトルの「Don’t let me down」は、「がっかりさせないで」という意味。ビートルズに同名タイトルの曲(1969年)があり、ジョン・レノンの切ない気持ちが描かれている。一方、阿部の「Don’t let me down」は、怒りの感情が色濃くにじんでいるのが特徴だろう。特に♪愛憎も見下す毛嫌いも、嫉妬♪と♪愛情も理想の押し付けも sh !♪という韻を踏んだサビのフレーズに、阿部の怒りを強く感じた。
リズムは前半が“ジャイブ”というロックンロールの原型のひとつで、後半は2ビートのカントリー風になっている。人間の根源的な感情を伝えるのに適したアーシーな音楽の造りだ。もしこれが洗練されすぎたリズムだと、歌詞に対してのパワーが足りずにウソくさくなってしまう。
阿部が怒りの感情を歌うことは珍しいことではない。しかし現在のJ-POPシーンでは喜怒哀楽のすべてを歌うアーティストはまれなので、阿部は「自分の思うことをすべて歌にする」アーティストとして独自のポジションを築いてきた。その意味で再始動第1弾に“怒”の歌を選んだのは、阿部らしい選択だと言えるだろう。
僕はこの「Don’t let me down」を聴いていて、尾崎豊の「LOVE WAY」という歌を思い出した。アクシデントで休止していた尾崎は、1990年にこの歌で音楽活動を再開した。この歌には♪押されて流され愛は計られる♪というフレーズがあるのだが、そうしたものから感じられる心情がなぜか阿部の「Don’t let me down」とシンクロした。こんがらがった感情が、歌を通じて吐き出されるとき、リズムは激しくなり、相反する言葉が立て続けに並ぶ。それは歌でしか伝えることのできないものであり、歌だから矛盾した感情や論理が並存できるのだ。
だとすれば、阿部は今、重たい荷を背負っているのかもしれない。だが、彼女はそれを乗り越える力も持っているに違いない。
そう思いながらカップリングに収められた昨年のツアーでの弾き語り「じゃあ、何故」を聴くと、同じ怒りの歌なのにニュアンスが異なっていることに気付く。「じゃあ、何故」に歌われている感情はある程度整理されているが、「Don’t let me down」は自分の感情と闘っている真っ最中の阿部真央がいる。この再始動シングルは、そこが貴重なのだと思う。リアルなのだと思う。
【文:平山雄一】
リリース情報
Don’t let me down
発売日: 2016年05月25日
価格: ¥ 1,000(本体)+税
レーベル: ポニーキャニオン
収録曲
1. Don’t let me down
2. じゃあ、何故 弾き語り ver.(阿部真央らいぶNo.6@東京国際フォーラム ホールA)
3. 阿部真央らいぶNo.6 スペシャルメドレー(ポーカーフェイス・I wanna see you・プレイボーイ・世界はまだ君を知らない・モットー。1コーラス)
4. Don’t let me down(Inst.)