レビュー

ぼくのりりっくのぼうよみ | 2016.07.13

連載 第129週
ぼくのりりっくのぼうよみ
「ディストピア」


今後のラップ?いやダンスミュージックシーンを、“ぼくりり”はひっくり返す

 メジャー・デビュー第2弾のEP「ディストピア」で、“ぼくのりりっくのぼうよみ(以下“ぼくりり”)”の最新のリリックを楽しみにしていたのだが、まずグッときちゃったのはメロディだった。
 言葉に潜むリズムとメロディを分かりやすく抽出して、ある程度の意味をつけて娯楽にするのがポップソングなのだとしたら、“ぼくりり”は真っ当にそれを貫いている。ラップというジャンルから登場した彼に対して、言葉に対しての期待が大きいのは仕方のないことだが、“ぼくりり”はこのEPで「それだけじゃないっ!!」ってことを証明して見せた。
 何しろこのEPには、とてつもない音楽的包容力がある。特に3曲目の「Water boarding」にそれを感じる。サウンド・コラージュの手法をさりげなく取り入れて、ジャジーなものとクラシカルなものを見事に融合させた上で、冒頭に書いたメロディを浮き彫りにする成果を生んだ。

 ここで断っておきたいのは、音楽において言葉とメロディは等価値であることだ。メロディに見合ったリリックでなければ音楽として成り立たないし、リリックに見合ったメロディでなければ音楽として成り立たない。かなり入り組んだリリックを持つ「Water boarding」は、“ぼくりり”が仕掛けたサウンド・コラージュの手法でしか表現できない。それを何のためらいもなく実行してしまう“ぼくりり”は、やっぱりただの18才ではないんだな、きっと。
 それでももう少し説明を加えたかったのか、初回限定盤には「Water boarding」と題した短編小説が添付されている。その意味は2通りに受け取れる。このコンセプトを、さらに言葉で補いたかったのか。あるいはさらに混乱を招きたかったのか。その答えは聴いた人、読んだ人に委ねるにしても、きわめてシャレの効いたトラップだ。おまけに、初回限定盤には次作アルバムのアイディアノートが付いていて、こちらが試されているようで、本当に食えない18才だ。

 そういえば、日本の数少ない“詩”の専門誌「ユリイカ」が先月号(6月)で“日本のヒップホップ特集”を組んだ。ラップバトル番組「フリースタイルダンジョン」の人気の追い風を受けてのことだとは思うが、この特集はとてもよく出来ているので一読を勧めたい。しかし、ユリイカの論議でも、“ぼくりり”は今、シーンのどのポジションにいるのかは解き明かせない。そう、解き明かせなくていいのだ。なぜなら“ぼくりり”は、現在進行形の真っ只中だからだ。

 これは僕の個人的な印象だが、“ぼくりり”は90年代に登場してダンスミュージックシーンをひっくり返したジャミロクワイと同じ匂いがする・・・と、思って検索したら、“ぼくりり”もジャミロに興味を持ってんじゃん。半分、「やっぱりね」と思いながら、半分、やっぱ“ぼくりり”、おもしれ~♪♪
 そういえばジャミロクワイに最初に反応したのは、フリッパーズ・ギターの小山田圭吾だったっけ・・・

【文:平山雄一】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル ぼくのりりっくのぼうよみ

リリース情報

ディストピア

ディストピア

発売日: 2016年07月20日

価格: ¥ 1,200(本体)+税

レーベル: CONNECTONE

収録曲

1.Newspeak
2.noiseful world
3.Water boarding
4.sub/objective (remix)

スペシャル RSS

もっと見る

トップに戻る