レビュー
back number | 2016.07.27
back number
「黒い猫の歌」
こうして back numberは、みんなが口ずさみたくなるナンバーを増やす。
清水依与吏のソングライティング能力には、本当に驚かされる。今回の「黒い猫の歌」も、映画「ルドルフとイッパイアッテナ」の主題歌として作っているわけだが、だからこの歌になった部分があるものの、もし映画がなくてもback numberの最新シングルとして充分に成り立つ内容を持っている。清水の柔軟なアイデアと表現の軽やかさは、今のシーンでも群を抜いていると言っていい。
「ルドルフとイッパイアッテナ」は、斉藤洋の児童文学作品をアニメ映画化したもの。主人公の黒猫・ルドルフは、ひょんなことから地元の岐阜から東京に来てしまう。東京で知り合った読み書きのできる猫・イッパイアッテナの助けで岐阜に帰ろうとするのだが・・・。
まず黒猫を「黒い猫」としたところが鋭い。“黒猫”だと一匹しかイメージが浮かんで来ないが、“黒い猫”とすることでいろんな黒い猫が想像できる。つまり黒い猫は、黒猫より一般化しているので、思いを重ねることのできる人数が飛躍的に増えるのだ。
どこにでもいそうな黒い猫が、歌の中で、屋根の上に登ったり、自分の色を探したりする。結局、自分の色はその時その時でいろいろあって、赤や黄色や青を混ぜたら黒になっちゃったと清水は歌う。この仕掛けも、非常に面白い。面白いからこそ、アニメ映画から離れても、一個の歌として独立して聴けるというわけだ。しかも、歌詞には“黒い猫”という言葉が一切出てこない。清水のアイデアはどこまで豊富なのだろうと、思わず笑ってしまった。
自分を探す歌なのに、理屈っぽさはなく、児童文学特有のほのぼのとした温かさがある。それもソングライター清水の手柄だろう。
そして僕がもうひとつ面白いなと思ったのは、サウンドだった。ベースを前面に出したアレンジは、とても理知的なイメージをリスナーに与える。それはこの歌がラブソングではないことを音で示し、リスナーに心の準備をうながすように作用する。その後、軽快なビートで自分を探す旅の描写を率直に届ける。
このサウンドのタッチを提供しているのは、back numberとは付き合いの長いアレンジ・チーム“soundbreakers”だ。この起用がぴったりハマって、映画とバンドが両立する歌が生まれた。
歌とサウンドの力の抜け方が、なんとも快い。こうしてback numberは、またしてもみんなが口ずさみたくなるようなナンバーをひとつ増やしたのだった。
【文:平山雄一】
リリース情報
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黒い猫の歌[配信]
発売日: 2016年08月01日
価格: ¥ 500(本体)+税
レーベル: ユニバーサル シグマ
収録曲
1.黒い猫の歌
2.黒い猫の歌 (instrumental)