レビュー

クリープハイプ | 2016.08.31

連載 第136週
クリープハイプ
「世界観」


“尾崎『世界観』の吐く呪いの言葉が、リスナーをさらに浸食していく。

 尾崎の心に棲む怒りは、いつなくなるのだろう。メジャー4作目となるニューアルバム『世界観』には、ヒリヒリする怒りがそこここにあふれている。まだまだなくなる気配はない。それどころか、ますます怒りの種が増えているような気がしてならない。
 普通、人間の表現活動は、何かを発散するために行なわれる。あるいは、そのつもりがなくても、表現された感情は発散されるものだ。悲しみの歌を歌えば、悲しみが少しは解消される。怒りを歌にぶつければ、怒りは薄らいでいく。・・・はずなのだが、尾崎の場合は“火に油”。歌えば歌うほど、悲しみや怒りの感情が燃え上がっていくように聴こえる。おそらく彼は、自分を癒すために歌っているのではない。自分が何と対峙しているのか、忘れないために歌っているように思う。

 アルバムのオープニングの「手」では、♪こうやってエイトビートに乗ってしまう ありきたりな感情が恥ずかしい♪と歌う。アルバムの最後に収められている「バンド」では、♪それでも少し話をしよう 歌にして逃げてしまう前に♪と歌う。尾崎にとって歌は、最大の武器であるのにも関わらず、歌った途端にありきたりな感情表現になってしまったりする厄介なものなのだ。尾崎は、歌にして逃げようとする自分を許さない。その流れで言えば、「破花」の♪真っ白な気持ちは書いた分だけ黒くなる♪というフレーズも、「手」や「バンド」と同じことを描いているのだろう。
 音楽という最愛の表現を、逃避の手段にしないという決意を尾崎は自分自身に言い聞かせる。怒りを自分にぶつけるのは、途方もなくツラい。しかし尾崎は音楽をやり始めて以来、ずっとそれを続けてきた。
だから「テレビサイズ(TV Size2’30)」という歌が強く響く。どんなに大切な曲でも、歌番組の都合で (超ビッグスターは除く)2分半のサイズにまとめなければならない。そんな大人の事情を自虐的に暴露しながら、思い切り怒りをぶつける。

中でもこれまでと異なるアプローチを感じたのは、ラッパーのチプルソとのコラボ「TRUE LOVE」だった。バンド演奏によるトラックに乗って、韻を踏みまくりの2人の歌詞が交錯する。内容はかなり黒い歌で、サビの♪言葉のアヤだよ~あれは語弊だよ♪という尾崎の言葉が強烈な印象を残す。
“言葉のアヤ”は尾崎の得意とするところだ。たとえばこのアルバムに入っている「けだものだもの」という曲のタイトルからして、“言葉のアヤ”の産物なのだ。ただ尾崎はこの技を非常に上手く使って、表現しづらい自分の複雑な感情をこれまでも見事に描いてきた。それを“言葉のアヤ”や“語弊”と客観的に言い切ったことで、彼の中の何かが変わる予感がする。 鬼才チプルソとはライブ・イベントでも共演しているが、“言葉のアヤ”や“語弊”と近い関係にあるラップが、尾崎をどんな形で浸食していくのか。もっと言えば、尾崎の吐く呪いの言葉のライムやリズムが強化されて、リスナーをどんな形で浸食していくのか。非常に期待の膨らむコラボになった。

自分に対しても、世間に対しても、一歩も退かない尾崎の描くクリープハイプの世界観は、ニューアルバムでも健在だ。


【文:平山雄一】

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リリース情報

世界観(初回限定盤)

世界観(初回限定盤)

発売日: 2016年09月07日

価格: ¥ 3,700(本体)+税

レーベル: ユニバーサルシグマ

収録曲

01.手
02.破花
03.アイニー
04.僕は君の答えになりたいな
05.鬼
06.TRUE LOVE
07.5%
08.けだものだもの
09.キャンパスライフ
10.テレビサイズ(TV Size 2’30)
11.誰かが吐いた唾が キラキラ輝いている
12.愛の点滅
13.リバーシブルー
14.バンド
初回限定盤DVD収録内容
・短編映画「ゆーことぴあ」
・ミュージックビデオ「鬼」
・メイキング映像「ゆーことぴあ」「鬼」

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