レビュー
米津玄師 | 2016.09.26
米津玄師の新シングル「LOSER/ナンバーナイン」は、約1年の空白を埋めて余りある両A面。つまりリード・トラックがダブルで収録された力作だ。そして対照的な2曲が、今の米津をリアルに伝えてくる。
キレのいいギターがメインのバンド・サウンドを軸にした「LOSER」は、前のめりに言葉を連射する米津が得意のヴォーカル・スタイルが、瞬時に心と耳を掴んでいく。ポップにしてアグレッシヴなアレンジは、蔦谷好位置とのタッグで生み出したものだ。「LOSER」というタイトルはニルヴァーナの代表曲を、歌詞の「カート」はニルヴァーナのヴォーカリストだった故カート・コヴァーンを連想させるが、米津はそれを踏まえてこの曲を作っているようだ。ちなみに、カートと並べたイアンは、ジョイ・デイヴィジョンのヴォーカルリスト故イアン・カーティスのことだろう。
ニルヴァーナは”俺は負け犬”と歌った「LOSER」の成功で世界中を熱狂させるバンドになった。米津も”負け犬”と歌いながら、その先を目指しているという宣言ではなかろうか。メジャー・デビューして4年が経ち25歳になった自分をクールに捉え、現状に安住しているわけでない焦燥感を吐き出している歌がリアルな息吹を伝えてくる。そんなリアルを視覚的に表しているのが、この曲のMVだ。長身と長い手足を見せつけるように、伸びやかに踊り続ける米津をカメラが追う。これほど踊れる人であることに驚かされるが、このダ振り付をした辻本知彦も賞賛のコメントを寄せている。雨に打たれながら最後に柔らかな笑みを見せる米津が見上げたものは何だろう。
「ナンバーナイン」は、ルーヴル美術館をテーマにした各国の漫画家たちの作品を展示する「ルーヴル美術館特別展『ルーヴルNo.9 ー漫画、9番目の芸術ー』」のオフィシャルイメージソングとなった曲。インディーズ時代から自身でMVのアニメーションを作ってきた米津は、この展示に作品も提供している。そして楽曲も米津自身が打ち込んだサウンドで構成し、柔らかでポップなメロディに乗せて過去から未来へと続く時間の流れを歌っていく。絵画や音楽といった作品が時空を超えて残り伝わっていく素晴らしさを、身を持って知っている人ならではの歌と言えようか。
そしてもう1曲は、祈りの言葉を冠した「amen」。シンプルだが実験的な音の構成と幻想めいた歌詞が、不思議な浮遊感に包み込む。様々な感情が波立っているが確かなのはそこに命があること。この1年で米津がソングライター・シンガーとして確実に包容力を増していることを実感させる曲だ。この3曲を手始めに、彼がさらに進んでいるのは間違いない。この3曲を携えて11月からスタートするツアーでは、どんな米津に出会えるだろう。
【文:今井 智子】
リリース情報
LOSER / ナンバーナイン
発売日: 2016年09月28日
価格: ¥ 1,200(本体)+税
レーベル: Sony Music Records
収録曲
01. LOSER
02. ナンバーナイン
03. amen