レビュー
amazarashi | 2016.10.05
amazarashi『虚無病』
“360°ライブ”以降、このミニアルバムは虚無病の最高の治療音楽となるに違いない。
周到に準備された“amazarashi LIVE360°「虚無病」”のキーとなる作品が、このミニアルバム『虚無病』だ。
オリジナル小説「虚無病」の第1章がwebで公開になり、ストーリーの枠組が明らかになった。無気力、無感動という症状を引き起こす虚無病が、2016年10月15日を境に日本に蔓延していくという。2016年10月15日はもちろん“amazarashi LIVE360°「虚無病」”が行なわれる日。言ってみれば“至近未来ドラマ”がいよいよ動き始める。その引き金が、ミニアルバム『虚無病』だということだ。
そして届いた『虚無病』は、ある意味、自らかけたプレッシャーを軽々と超える超傑作だ。ここに収められた5曲は、通常のフルアルバムに匹敵する、いや、フルアルバム以上に充実していて、1曲1曲を丁寧に聴き進みたくなる内容だ。
アルバムの1曲目は、2013年にamazarashiの秋田ひろむが中島美嘉に提供した「僕が死のうと思ったのは」。僕はこの曲にこんな形で再会するとは思わなかったから、耳は不意打ちを食らったようにミニアルバムに吸い込まれた。中島よりもずっと低い声で♪僕が死のうと思ったのは♪と歌い出されると、虚無病が蔓延する世界が出現する。♪分かってる けれど♪というフレーズには、途方もない熱が込められている。♪世界に少し期待するよ♪と歌い終わった後に訪れる光に満ちたチェイサー(後奏)が、これから始まる壮大なストーリーに向かって心を開かせてくれる。
ちなみに僕は先月、新宿ロフトで中島美嘉とギタリスト土屋公平のバンド“MIKA RANMARU”のライブを観たが、このバンドで「僕が死のうと思ったのは」を聴きたいと思うと同時に、この歌がamazarashiの世界観に非常に合っていると深く納得したのだった。
続く「星々の葬列」もまた、ストーリーを想起させる力のある美しいミディアムバラードだ。“大きな星が死んだのでしょう”、“綺麗な星が死んだのでしょう” 、“大事な星が死んだのでしょう”と展開していくリリックには含みが多く、ライブでどんなシーンが見られるのか期待が膨らんだ。
そしてラストの「メーデーメーデー」が凄い。♪テレビの向こうの多数の犠牲者には祈るのに この電車を止めた自殺者には舌打ちか♪と、この時代に対して痛烈な抗議の一撃を放つ。
すべては10月15日に明らかになる。その予習テキストとして、『虚無病』は最高の作品だ。この完成度の高い予習テキストがあるからこそ、会場はもちろんのこと、ライブ・ビューイングならではの楽しみが生まれる可能性が高い。
そして、ライブ以降、日本に蔓延すると予言された虚無病の、最高の治療音楽になるに違いない。
【文:平山雄一】