レビュー
キュウソネコカミ | 2016.10.18
14歳は特別な時だ。子供時代が終わり、スタートの銃声が鳴り、待ったなしの人生がいきなり始まる。だから、14歳は作品の題材にも選ばれる。THE HIGH-LOWSの「十四才」、14歳の碇シンジを主人公にしたアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』。14歳が特別な時を生きているように、それらの作品も特別な輝きを放っている。キュウソネコカミの3rdシングル「わかってんだよ」は、映画『14の夜』の主題歌だ。『百円の恋』で日本アカデミー賞脚本賞を受賞した、足立紳の初監督作品。呆れるほど馬鹿だった、という映画の14歳の主人公に、キュウソもまた特別な想いを寄せた。
「わかってんだよ」の主人公は、まわりをクズだと見下している。一方で、そのクズにすらなり切れない自分に苛立ちも感じている。ある日、彼は知る。見下していたはずの相手が人生の準備をしていたことを。クズは自分のほうだったことを。彼に比べれば、尾崎豊の「15の夜」はもはやリア充。かつて≪明日から本気出せばいいや≫と呟いた、2014年発表の「何も無い休日」の衝撃が、再び襲ってくる。聴いているこちらも部外者ではない。「わかってんだよ」の主人公を笑えず、自分もクズである事実に気づき、思わず愕然としてしまうのだ。
しかし、キュウソはそこから一歩踏み込んだ。絶叫とギターが主人公の叫びを代弁し、リズムは未来へと駆け出し、コーラスとキーボードがその苦悩を美しく包む。どん底に落ちた者にこそ響く、厳しくも温かいメッセージが明確な言葉で用意される。これは驚きだった。曲の主人公だけでなく、キュウソ自身にも変化が訪れていたからだ。彼らは知っているのだ。彼ら自身もきっと“14の夜”を何度も越えてきたのだ。漠然とした不安な日々が突然終わり、現実を容赦なく突きつけられた夜。それはとてもつらいが、自分が変わる時が来たことを告げる、尊い瞬間なのである。
同時収録曲は「秋エモい」と「コミュ力」。季節の秋も人生の秋も寂しくて焦るけど、それってエモーショナルじゃね? コミュ力に難ありってことは、裏を返せば友達が欲しいっていう切実な想いなんじゃね? と、この2曲も自虐と孤独を貫きながら、その眼差しはどこか温かい。勢いのある作風は保ちつつ、さり気なく、だけど大きな一歩を踏み出したキュウソネコカミ。「わかってんだよ」を聴いて、あなたの心が激しく動いたとしたら、そこには大いなる変化を告げる特別な瞬間が訪れている。
【文:柳村睦子】
リリース情報
わかってんだよ
発売日: 2016年10月26日
価格: ¥ 1,500(本体)+税
レーベル: ビクターエンタテインメント
収録曲
1. わかってんだよ ★映画「14の夜」主題歌
2. 秋エモい
3. こみゅカ
【初回限定盤CD+DVD】VIZL-1062 ¥1,500+税
【通常盤CD】VICL-37220 ¥1,000+税