レビュー
My Hair is Bad | 2016.10.20
新潟県上越市在住、すさまじい本数のライブを全国で何年も続けることで地盤を固め(2016年は180本以上)、今年5月にシングル『時代あつめて』でメジャーデビューするのと前後してバンド・シーンでは完全にブレイクしたMy Hair is Bad。メジャーからのフルアルバムはこの『woman’s』が1枚目だが、10月19日にリリースされるや否や、オリコンデイリーチャートに見事ランクインした。
あの子と愛し合いたい。あの子とセックスしたい。ブラジャーのホックを外す時だけ心の中までわかった気がした。あの子に男ができたっぽい。あの子と終わりそうだ。結婚したいなって思ってたけど思っていただけだった。あの子と終わってしまった。あの子が出て行った。新しい恋人ができたことをあの子に伝える──基本的にラブソングばかり作るバンドであり、本作でもそんなような、おおむね残念な恋愛に関するあれこれが歌になっている。
誰かに合わせるのはやめた。ハイエースに揺られている方がよく眠れるようになっていた。この時代でこの世代の自分が生きていることはなんなのか。もう全部めんどくさい。人が轢かれるのを見た。ずっとハッピーエンドばかり待っているしハッピーエンドばかり追っている──基本的に自分のことばかり歌うバンドであり、本作でもそんなような、日々の中で瞬間的に強く残った自分の思いや自分の体験が、加工したり体裁を整えたりされていない言葉によって、未整理に、赤裸々に、生々しく綴られている。
それらが、そもそもELLEGARDENどまんなか世代で、メロコア/エモをやりたいと思ったのが出発点だという(言われてみれば曲構成やアレンジにその影響が見える)、ラウドで性急でやたらせっぱつまったギター・サウンドに乗っかって、どんどん吐き出される。
どうでしょう。最高以外のなにものでもないでしょう、それは。
嘘がない。虚飾がない。ハッタリとか見栄とか過大な申告とかがない。どの曲もただただ、恥ずかしいくらいそのまんまの自分が音楽になっている。
って、べつに嘘や虚飾があってはいかんというわけではない。あってもなくても音楽としてすばらしければそれでいいんだけど、このバンドの場合は、己の恥ずかしいところ、人前にさらすのに相当な勇気が必要なところを音楽にしないと聴く人に届かない、ということを経験でわかっていて、だからそうなるんだと思う。
そんな地方の若者=ボーカル&ギターの椎木知仁の、「知らねえよ」って言いたくなるくらい個人的なあれこれが、社会とか日本とか世界情勢とか生き死にとかとダイレクトかつ自然に直結している、そんな音楽になっていることもすばらしい。
10代20代のロック・ファンは男女ともほっといても聴く、というかもう聴いていると思うので、「ずっとロック聴いてきたけど最近の若いバンドのよさがわからなくなってきた」という世代の方に特にお勧めしたい。大丈夫です、ぶっ刺さります、これなら。
【文:兵庫 慎司】
リリース情報
woman’s[初回限定盤]
発売日: 2016年10月19日
価格: ¥ 4,200(本体)+税
レーベル: EMI Records
収録曲
[CD収録曲]
01.告白
02.接吻とフレンド
03.音楽家(ミュージシャン)になりたくて
04.グッバイ・マイマリー
05.戦争を知らない大人たち
06.恋人ができたんだ
07.mendo_931
08.ワーカーインザダークネス
09.革命はいつも
10. 沈黙と陳列 幼少は永遠(とわ)へ
11. 真赤
12. 卒業
13. また来年になっても
[初回盤 LIVE DVD 収録内容]
・2015年12月14日 渋谷 CLUB QUATTRO「師走の虎」
01.真赤
02.18歳よ
03.新曲
04.白熱灯、焼ける朝
05.月に群雲
06.クリサンセマム
07.ディアウェンディ
08.フロムナウオン
09.最近のこと
10.悪い癖
11.ドラマみたいだ
12.優しさの行方
13.アフターアワー